熊本市から車で約1時間、標高470mの阿蘇の麓にある隠れ家食堂「父娘庵」では、県外から訪れた客が開店前から列をなしていた。店では、整理券が配られ、午前11時の開店には、続々と人が集まっていた。オープン後、店内はすぐに満席になっていた。一番人気は、黒毛和牛の焼き肉定食だ。阿蘇産のA5ランクのサーロインが使われている。店は、山内さん夫婦が切り盛りしている。山内さんは、熊本県内のホテルなどでシェフとして働いていた。黒毛和牛にはこだわり、阿蘇で年に70頭しか販売されていないレアものだという。ステーキには、1頭から8キロしかとれないサーロインを使っている。1センチに切り、表面をさっと焼いて、仕上げにフランベする。ビーフシチューは、1週間かけて煮込んだ自家製のデミグラスソースに、サーロインの切り落とし部分を使っている。スタンプカードで、スタンプを5個貯めると、6回目の来店で、特別料理を出してもらえる。埼玉からの常連客は、2日連続で来店し、無料サービスのチキン南蛮を食べていた。店は、山内さんが倉庫を2年かけてリフォームしたもので、離れまで自らつくったという。2006年、山内さんの次女・由美子さんが自宅近くで不慮の事故にあい亡くなった。2年後、暮らしていた場所を離れ、心が落ち着ける自然豊かな阿蘇の麓に越し、その後、洋食店を始めた。由美子さんは、大きくなったら、お父さんとお店がしたいと話していたと言い、店名も、由美子さんが生前、話していたものだという。店内には、絵を描くことが好きだった由美子さんの絵が飾られていて、店の看板にも使われている。