デビュー19年目のプロレスラー・春日萌花はファンとの距離が近いインディーズ団体の花形選手として活躍している。19歳でプロレス界に入門。社会人になったばかりで自分は必要とされていないと悩んでいたとき偶然、友達に誘われて観戦したのがきっかけだった。萌花には3歳年上の姉、智恵がいる。両親が共働きの家庭で育った姉妹はどこへ行くにも一緒だった。友達と言い争いをしたときも姉はいつもかばってくれた。萌花がプロレスへの入門を決断したときも周囲が反対する中、姉の智恵だけは背中を押してくれた。ところが、おととし、智恵の持病の腎臓病が悪化し、重い腎不全と診断された。当時、智恵は5歳の娘の母親。医師から提案された治療の1つが腎移植だった。生体腎移植のドナーは原則、親族に限られる。妹の萌花はドナーになる覚悟を姉に伝えた。萌花の決意を聞いた姉、智恵の胸の内は複雑だったが、9時間の大手術を経て萌花の腎臓は無事、姉へ。日常生活を取り戻すことができた姉の智恵は日々のささやかなことも姉妹で報告しあっている。萌花が道場に戻ってきたのは手術の4か月後。復帰に向けて痛みの恐怖を断ち切るように受け身の練習を繰り返す。しかし、以前のような動きが戻らない。萌花は手術前に比べて疲れやすく、体力が思うように回復しなくなったと感じている。復帰戦の前日、自身のラジオ番組でこれまで励まし続けてくれたファンに向けて不安が残る中、全力で戦うことを伝えた。1年ぶりにリングに帰ってきた萌花へ会場ではたくさんのファンが待ち構えていた。リングサイドには妹を見守る姉、智恵の姿。傷口への容赦ない攻撃を全力で受け止め、持てる力を振り絞って戦い抜いた12分間だった。