台湾南部の港湾都市・高雄市。かつてここに日本海軍の拠点があった。戦争に多くの台湾市民が日本兵として参加したことはあまり知られていない。陳金村さん(97)は17歳のときに海軍に志願した。太平洋戦争当時、日本の統治下にあった台湾では20万人以上の台湾市民が日本軍の指揮下に入った。陳さんの配属先は特攻隊。爆弾を抱えて戦艦に体当りする特攻艇「震洋」の部隊だった。部隊は出撃しないまま終戦を迎え生き残った陳さんだが、その後は中国本土から来た新たな政権のもと、日本兵だったことを隠して生きてきた。日本政府からは一部の戦没者らに弔慰金が支給されただけで陳さんら元日本兵のほとんどに戦後補償はなかった。元日本兵たちの存在は日本でも台湾でもほとんど知られていない。戦後80年、記憶を繋いでいくための時間は限られている。