種子島の塰泊集落は古くから馬毛島で漁をしてきた。浜田純男さん(69)はトコブシやアサヒガニなど馬毛島の漁で暮らしてきた。就職で一度は島を離れ、26歳で戻って漁を始めたが、国家石油備蓄基地の補償金目当てと言われたという。1975年に民間企業・馬毛島開発が馬毛島の大半を買収。石油タンクなど様々な計画が立ち上がっては消えた。2000年に入ると砕石事業による大規模な掘削や滑走路にするための造成が行われ、漁業基地は次々に買収された。共有地の地権者3分の2が売買契約、代表名義人の小組合役員が移転登記した。漁業基地にはバリケードが設置され、開発業者が占拠した。2001年に反対する地権者22人が土地を共同で利用する権利「入会権」の確認を求めて開発業者を提訴した。その中の1人・西義春さんが譲れない思いを語ってくれた。漁業者が地元の沿岸(地先水面)を管理し、貝類や海藻類を利用する慣習上の権利を漁師たちは「地先権」と呼んでいる。馬毛島に漁業基地を築いたのはこの権利を得るためだった。小組合の役員で漁業基地の買収に同意した磯川次夫さん(90)は、1975年に漁労小屋は使われなくなっていたと語った。1970年代後半になるとトビウオの水揚げ量が減り、共同での漁は衰退。季節移住もなくなっていた。入会権確認訴訟は2014年に原告が勝訴。漁業基地の買収に反対した漁師の多くは基地建設にも反対した。国は開発業者から160億で馬毛島を買収、共有地の立ち入りは制限されている。