一般の人がAEDを使用できるようになってことしで20年。設置は全国で69万台に上っている。その一方でAEDがあるにもかかわらず使われない、使っていいのか分からないという課題も浮き彫りになってきた。さいたま市ではAEDが使われずに亡くなった小学生の事故をきっかけに取り組みを進めている。きっかけは学校でのある事故だった。2011年9月、さいたま市の当時小学6年生の桐田明日香さんが駅伝の練習中に倒れ亡くなった。駆けつけた教師たちはけいれんなどがあったために心臓が止まっていると思わず学校に設置されていたAEDが使われることはなかった。母親の桐田寿子さんは「AEDを使っていれば娘は救われたかもしれない」と同じように悲しむ家族を作りたくないと強く思った。寿子は教育委員会と協力して教職員向けの救急対応マニュアルを作った。その名もASUKAモデル。小中学生向けの救命教育のもとになった。電気ショックが必要かはAEDが判断し、このため迷わず迅速に対応することが重要だと教える。AEDの設置場所にも変化があった。さいたま市のすべての公立中学校では校門にAEDが設置された。24時間、学校に人がいないときでも誰でも使えるようにするためだ。AEDは専用のケースに入れられ暑さと防犯の対策が施された。AEDの校門設置から1か月後。去年12月、生徒がAEDを持ち出して倒れた人を助けようと行動に移した。商業施設を訪れていた生徒たちは駐輪場で女性が倒れたのを目にした。女性の意識がないことを知った生徒はすぐさま消防に通報した。ほかの生徒もAEDを探しに走った。とっさに思いついたのは学校の校門に設置されたAEDだった。中学校までは250メートル、AEDを抱えて駐輪場に戻った。AEDはその場に居合わせた大人が装着。女性は救急車に搬送され一命を取り留めた。専門家は行動するには自分事として捉えることが大切だと指摘する。AED普及のきっかけとなった事故から13年。母・寿子さんは救命教育で多くの命が救われることを願っている。取材した中学校の生徒たちはいざというときに対応できるようみずから学校周辺のAEDを調べ設置場所を地図に落とし込んで生徒手帳とともに持ち歩いているという。