アメリカのトランプ政権には、数十人にものぼるシリコンバレー出身の企業家や投資家が起用されている。こうした人たちは、今アメリカでは「テックライト」と呼ばれている。「テクノロジー」と「右派」を合わせた言葉で、トランプ政権が進める官僚主義の打破や規制の撤廃を支持している。中には民主主義のシステムを否定する思想も出てきている。今年5月、トランプ政権による規制緩和で値上がりしている暗号資産「ビットコイン」の年次大会が開かれた。来賓として登壇したのはバンス副大統領で、「官僚が技術の発展に介入すべきではない」と主張した。AI・暗号資産の制作責任者であるデービッド・サックス氏は、「バイデン政権時代に、官僚が暗号資産やAIなどを過剰に規制していた」と批判した。トランプ政権内で官僚や規制を強く批判するテックライト。その人たちが信頼を寄せ、教祖とも呼ばれる人物に接触することができた。シリコンバレー出身の思想家でブロガーのカーティス・ヤービン氏はバンス副大統領の友人であり、マスク氏が新党立ち上げにあたって会談したとされる人物。ヤービン氏は官僚制度をすべて撤廃するべきだと主張し、官僚制度や大学、既存メディアなどを「既得権益層」として批判。中世の権力になぞらえて「大聖堂」と呼び、イーロン・マスク氏が率いたDOGEを「大聖堂に風穴をあける取り組みだ」と評価している。一方アメリカではDOGEによる連邦職員の大量解雇や富裕層を優遇する政策に対し、抗議の声も上がっている。しかしヤービン氏は「省庁や議会、裁判所などの民主主義のシステムは不要であり、CEOのようにトップダウンで国家を運営すべき」と主張する。テックライトの中には既存の国家の枠組みを抜け出し、新たな国を築こうという動きもある。プロジェクトを主導するドライデン・ブラウン氏は世界各地の投資家や企業家などに呼びかけ、「プラクシス ネーション」と名付けたネットワーク国家を築こうとしている。広大な土地を購入して、既存の国家の規制や制度に縛られない新たな自治体を設立。CEOがトップとなり、官僚の代わりにAIが運営する。こうした自治体を世界中の国に設置し、ネットワークでつながるという構想。「プラクシス ネーション」はすでにマスク氏が経営するスペースXの社員やDOGEのメンバーなど、テックライトの人たちを中心に約1万2,000人を市民として選んでいる。世界有数の資産家や技術者が集結し、「テクノロジーの力で人類の進歩を加速させる」としている。「プラクシス ネーション」の市民に選ばれた元投資家のコリンズ夫妻はトランプ政権を支持し、「将来民主党政権で再び規制や価値観を押しつけられる事態に備えている」という。テックライトに広がる新たな思想を分析した書籍を出版したアダム・ベッカー氏は、テックライトは「みずからのビジネスのために『民主主義のシステム』を破壊しようとしている」と警鐘を鳴らしている。
