みみより!解説 (みみより!解説)
今日のテーマは「ウクライナとガザの戦争。今、国連で働く日本人は」。国連担当の鴨志田郷解説委員。ロシアによるウクライナ侵攻とガザ地区での戦闘は今も全く収束の見通しが立っていない。そんな混乱が続く中で国連や関係機関の最前線で日本人のリーダーたちもいる。今、国連の日本人の中でいちばん高い地位にいるのが中満泉事務次長。中満さんは今、ニューヨークの国連本部でグテーレス事務総長のもと軍縮部門のトップを務めており、国で言うなら閣僚の立場にある。30年以上にわたる国連のキャリアの中で振りだしは、中東や旧ユーゴスラビアで難民の支援にあたり、その後PKO(平和維持活動)のアジア中東地域の責任者などを務めてきた。そして7年前に軍縮部門の責任者に抜てきされてからは世界の軍縮会議を切り盛りし日本人として、とりわけ熱心に核軍縮に取り組んできた。中満さんは今、ロシアが核戦力で威嚇を繰り返している現状などに強い懸念を訴えており危機の時代こそ国家間の緊張を和らげる軍縮の道に立ち返るべきだと働きかけている。
外交の世界で奮闘するリーダーもいれば紛争地の人道支援を支えているリーダーもいる。今も戦闘で多くの市民が犠牲になっているガザ地区の医療支援を指揮しているのがUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の清田明宏保健局長。みずからも結核症などを専門とする医師の出身で中東の医療支援に関わったのがきっかけで、WHO(世界保健機関)の中近東地域の感染症対策の責任者となった。14年前からUNRWAでヨルダンなどを拠点にパレスチナの医療体制の整備にあたり、今では医師や看護師など3000人余りの活動を束ねている。イスラエル軍の攻撃でUNRWAの病院も破壊され医療スタッフも犠牲になる中で、清田さんは今もガザ地区に入って救える命は1人でも救おうと取り組んでいる。
戦争のさなかに行われた不正を追及しているリーダーもいる。国連からは独立しているものの国連と密接に関わる関係機関の中に、戦争犯罪などを行った人物の責任を追及するICC(国際刑事裁判所)がある。そのICCの所長に、今年就任したのが赤根智子さん。日本で36年間検察官としてのキャリアを積み最高検察庁の検事も務めて6年前にICCの裁判官になった。ICCは去年ロシアのプーチン大統領に戦争犯罪の疑いで逮捕状を出しロシアの強い反発を受けている。実は、赤根さんもプーチン大統領の逮捕状の発付に関わったためロシアから対抗措置として指名手配されて身の安全も気遣っている。それでも権力に屈せずに正義を追求したいという思いは日本の検察官時代と変わらない。
紹介した3人のうち2人が女性。去年の時点で国連関係機関で働く日本人職員961人のうち600人近くは女性でしかも幹部の91人のうち50人以上が女性。多くの日本人が世界の重要な立場で今、活躍している。国連や関係機関で働く日本人職員はまだまだ少なくて外務省は、今年中にその数を1000人にすることを目指している。国連機関で働くには募集されるポストに応募する方法もあるがJPO(ジュニアプロフェッショナルオフィサー)という制度もある。外務省の審査を受けて国連機関に派遣され実務の実績が認められればそのまま正規採用されるというもの。今、世界の危機の最前線で奮闘する国連や関係機関の皆さん、それから困難な時代だからこそ将来、国連機関で働きたいという思いを持っている気概のある皆さんに心からエールを送りたいと思う。