情熱大陸 (情熱大陸)
動物言語学者の鈴木俊貴(42歳)は執念の観察と膨大なデータから、鳥は鳴き声を使い分けて仲間たちに天敵の存在や餌場を伝えていることを世界で初めて証明。論文は海外の科学専門誌で絶賛された。今年は優れた動物の生態研究者に贈られるティンバーゲン・レクチャー賞を受賞。研究内容をユーモラスに綴った「僕には鳥の言葉がわかる」は異例の大ヒットとなり、数々の賞を受賞して時の人となった。
ことし5月、鈴木は長野県軽井沢にいた。車を運転していても鳴き声で鳥がわかり、取材スタッフに説明してくれた。年間10か月は軽井沢の森で過ごし、シジュウカラを観察している。森には自作の巣箱が200ほどあった。5月は産卵期で、中を覗くと卵が産んであった。卵はヘビに狙われるため、必要に応じてプラスチックを活用した「ヘビよけ」を設置していた。シジュウカラは胸元に黒いネクタイ模様がある。オスが「ツピーツピー」と鳴いていた。巣の中で卵を温めているメスに「出ておいで」と呼びかけているという。メスが「チリリリ」と鳴き、「巣に入って」と促すと、オスが巣箱の中に入っていった。
東京大学准教授の鈴木は2年前に世界で唯一の「動物言語学」という分野を立ち上げた。各国の研究者が集い、それぞれのテーマに取り組んでいる。アリストテレスやチャールズ・ダーウィンも唱えた「言語はヒトに与えられた特別な能力」という固定観念を鈴木は覆した。
6月になると鈴木はシジュウカラのつがいが天敵にどう対応するかデータを集めるため森へ向かった。観察・実験には7つ道具を持参する。双眼鏡、小型ビデオカメラ、鳴き声を記録するマイク、レコーダーなど。加えて今回はハシブトガラス&ホンドテン(イタチの仲間)の剥製、天敵アオダイショウのレプリカを持参した。クマが出る可能性もあるというので、熊よけスプレーも持ってきた。巣箱の中を見ると卵が孵化してヒナが生まれていた。シジュウカラが「ピーツピ」と鳴いたので鈴木はその場所を離れた。「警戒しろ」という意味だという。シジュウカラが巣箱に入ると、ヘビのレプリカを地面に置いて実験を開始。オスが「ジャージャー」と鳴いた。ヘビの存在をメスに知らせているという。鈴木は目の前で起きた出来事をノートに記し、後で映像と照らし合わせてデータ化している。メスが戻ってきたのは1時間後でオスとメスのやりとりを見ることはできなかった。鈴木は「個性が強いから、たくさんデータをとらないと、ちゃんとした結論に導けない。来年までかかる」と語った。別の日には料理研究家・土井善晴が森を訪れた。バードウォッチング仲間で鈴木に魅了されたという。メスがオスに先に巣箱に入れと羽をバタバタさせて促す様子が見られた。ジェスチャーはチンパンジーなど類人猿だけの行動だと考えられてきたが、鈴木が300を超えるデータから鳥にも存在することを証明した。
鈴木は1983年東京生まれ。幼い頃は昆虫に夢中だった。高校時代にお年玉で双眼鏡を手に入れ、野鳥に魅せられた。東京大学大気海洋研究所でウナギの研究に取り組む特任准教授・脇谷量子郎は中学・高校の生物部で一緒だった。鈴木は脇谷の実証実験に協力した。鈴木の両親は研究に没頭すると寝食を忘れる我が子を心配したこともあったという。
