サタデーウオッチ9 テジボリ
政治家の発言などを切り抜いて文字などを載せて編集する切り抜き動画。発信している人に話を聞いた。1年ほど前に切り抜き動画の投稿を始めた都内在住の30代の男性。YouTubeでの動画投稿経験はなく政治にも特に興味はなかった。きっかけは広島県安芸高田市の市長時代の石丸伸二氏の動画を見たことだった。現在は会社を辞め配信を専業にしているという男性。石丸氏の発言を中心に切り抜き動画を毎日投稿。その数はおよそ1000本で総再生回数は3億回以上に上っている。編集作業はすべて1人で行っている。例えば、議会の動画を作る際には議会での発言のすべてを少なくとも4回試聴。働いている時間は会社員時代の2倍になったという。見た人から「政治に興味はなかったけど初めて選挙に行こうと思いました」などのコメントが付くようになったと話す。政治に関する動画を投稿するチャンネルどのくらい増えているのか。NHKがYouTubeの動画を対象にした独自調査の結果。2021年以降増加。これらのチャンネルの総再生回数は35億回を超えている。増加した理由として考えられるのが、前提としてYouTubeに動画を投稿し一定数以上視聴されると収益が得られること。もう一つが3年前の参議院選挙のころからYouTubeで情報を発信する政治家が増えたこと。その結果、切り抜き動画に使うことができる政治家の映像が増えた。さらに切り抜き動画を作成、拡散することを呼びかける政治家も現れたことで著作権の侵害などで訴えられるリスクが低いと考えられるようになり新規参入する動きが広がったと見られる。中には元々、ゲーム実況やスポーツなど異なるテーマで運営していた見られるチャンネルが最近になって政治に関する切り抜き動画にくら替えしているケースも複数見られた。去年から政治に関する切り抜き動画を本格的に投稿し始めたという運営者を取材。石川県に住む30代の男性は自分が共感する政治家の発言を紹介している。去年の能登半島地震で被災し事業が立ち行かなくなったことをきっかけに新たな収入源として本格的に始めたのが政治家の発言の切り抜き動画の投稿。感想や解説を加えるなどの工夫を重ね、1年ほどでチャンネル登録者は数万人に。最も多いときの収益は1か月90万円余りに上った。ただ、チャンネルには不確かな情報も掲載されていた。そのことについて尋ねると、「あくまで切り抜きチャンネル。ファクトチェックにも限界がある」と話した。その上で切り抜き動画には公益性があると話す。また、政治に関する切り抜き動画でより多くの収益を上げようという動きも見られる。NHKが複数のチャンネルに取材したところ編集作業などを外部に発注しているという運営者がいた。実際に大手求人仲介サイトで「政治、切り抜き」と検索すると600件以上の求人が見つかった。つまり1つのチャンネルが動画制作の一部を外注することで切り抜き動画を量産できる仕組みが整ってきている。こうした動画がきっかけで政治に興味を持つ人が増えているなどと評価する声もある。一方で真偽不明の情報などを拡散してしまったり、著作権などを侵害してしまったりする場合もある。実際にインターネット番組や国会の中継映像など著作権のある映像を許諾を得ずに使っているケースも見受けられる。与野党7党から成る協議会では選挙期間中のSNS規制について議論が行われている。そこでは収益化の規制やプラットフォーム事業者の責任を明確化することなどが議題になっている。政治に関する切り抜き動画について専門家の東京大学・鳥海不二夫教授は「わざわざ見に行ったり偶然会うことがなくても、候補者の主張が聞けるという意味ではメリットがある」と話す。一方で課題も指摘する。「動画の投稿者からすると多くの人に見てもらわなければいけない。より興味、関心をひくような動画を投稿しなければいけないことになる。よりよい情報を出して関心を奪うことであれば特に問題はないが、より刺激的であったり本当か嘘か分からないけれど、みんなの興味をひきそうなもののほうが、より再生されることになる」と話す。その上でこうした動画を視聴する際には動画が表示される仕組みを知ったうえで、幅広い視点からの情報をバランスよく得るよう気をつける必要があるとも指摘していた。