ニュースウオッチ9 (ニュース)
なぜこうした議論が巻き起こったのか。背景には近年相次ぐ「アーバンベア」、市街地に出没するクマの存在がある。北海道札幌市内の多くの住宅が集まるエリア。ことし7月、この付近でクマが目撃された。近年相次いでいる市街地でのヒグマの出没。3年前には札幌市東区で住民4人が襲われ、重軽傷を負う事態になった。目撃情報も増加傾向にあり2019年には1800件余だったが、去年には約4000件と2倍以上。警戒心がとても強く、犬よりはるかに鋭い嗅覚を持ち、時速60キロで走るとされるヒグマ。危険と隣り合わせとなる駆除は市町村からの依頼を受け、地元の猟友会のメンバーが主に担ってきた。しかし今、課題が指摘されている。市街地での駆除の難しさに直面したハンターがいる。北海道帯広市の猟友会・猟友十勝連絡協議会・沖慶一郎相談役。5年前の12月1日、体長約1m50cm、130kgほどあるメスのクマが市の中心部に出没。市の要請を受けて猟友会が出動。メンバーが住宅街でヒグマを目撃したが、発砲はできなかった。野生動物の保護や管理について定めた鳥獣保護管理法では市街地での猟銃の使用を禁止。市街地に出没したクマは、原則警察官職務執行法という別の法律に基づき、警察官の命令がないとハンターは発砲できない。その後、クマは小学校の校庭で発見された。現場には警察官や市の職員、ハンターが集まり、対応を協議。最終的には警察署長も現場に駆けつけ、弾が跳びはねる可能性のある住宅の住民を避難させ発砲が命令されたのは約4時間後。沖相談役は「100%仕留められる状況でなければ市街地での発砲はできない。その中でクマを追跡していく難しさはある」と語った。市街地に出没したクマへの対応が各地で課題となる中、ことし7月、環境省の検討会で警察官の指示がなくても市街地での発砲を可能とする法改正の方針案が示され了承された。ただきょう開かれた北海道猟友会の会議では、この法改正について懸念の声が上がった。北海道猟友会・堀江篤会長は「万が一、事故があった場合どうなるかとか、詰めて話をしていかないと。どこで発砲していいのか判断できる人が行政も警察も勉強してほしい」と語った。安全かつ迅速に駆除を行うために、どんな態勢が必要なのか。北海道旭川市では市、警察、猟友会が協力して模索を続けてきた。ことし8月、市街地にヒグマが出没したことを想定し3者が連携した訓練を初めて開催。法律に基づいて警察官が発砲を命令するケースについて手順を確認。猟銃の取り扱いを巡りハンターが法律違反に問われるなど不利益を被る事態を防ぐねらい。3者が中心となった「ヒグマ対策会議」も3年前から開催。確実に法律に違反することなく発砲を行えるよう、確認すべき手順をまとめたマニュアル作りも始めている。北海道猟友会旭川支部・高梨支部長は「今後も自治体の駆除要請に応じる」としたうえで「道義的な責任、銃を持っている以上、それなりの責任があるのではないか。三者一体となって協議しながらやる。市民のため、安全のために」と述べた。狩猟管理学が専門の酪農学園大学・伊吾田宏正准教授は北海道・旭川の取り組みを評価したうえで「地域の体制には差がある」として、「国や自治体などの役割の重要性」を指摘し「民間に依存したような場当たり的な体制は異常。何らかの公的機関で体系的に対応できる態勢と部署の配置、人材育成が喫緊の課題」と述べた。近年、人を怖がらないクマが増え餌を求めて人里に出没し生活圏の近くにも定着するようになったと指摘されている。現状のままでは今後もこの流れは続くと見られ人とクマの関係は大きな変化の時期を迎えていると言える。誰がどのような形で対策を担うのか。今回、北海道のハンターたちが投げかけた課題について、きちんと考えていく必要がある。