- 出演者
- 岩渕梢
きょうのテーマは人生の最期をどう迎えるかということ。高齢化が進む中で去年1年間に亡くなった日本人の数は過去最多の157万人余りに上った。最期を迎える人が増える中で、死因や最期といったところで以前とは違った傾向も出てきている。先月、公開されたドキュメンタリー映画「あなたのおみとり」(配給:リガード、EIGA no MURA)。末期のがんを患い自宅での最期を希望した90代の父親と、みとりを決意した80代の母親の姿を映画監督である長男が撮影したもの。息を引き取るその日まで40日余りをありのままに記録している。この映画で父親は自宅で静かに最期を迎えた。去年亡くなった日本人の死因を見ると、最も多いのががんで2番目が心疾患だが、このところ増え続けているのが3番目の老衰。老衰は高齢者で他に死亡の原因がない、いわゆる自然死だとされている(厚生労働省人口動態統計より)。2003年には亡くなる人の中に占める割合は2.3%だったが、去年2023年は12.1%。この20年で割合がおよそ6倍に増えている。高齢者の医療に詳しい医師や専門家に聞くと、背景としては大きな病気などがなく、高齢になるまで長生きする人が多くなったことが挙げられるという。今年7月、老衰で亡くなった母をみとった男性に取材した。グループホームで暮らしていた86歳の田原桂子さんは物を飲み込む力が弱くなり、次第に口から食べることができない状態になった。リハビリを続けたものの回復が見込めず、管を通して胃に栄養を流し込む処置を行うこともできたが、息子の田原真司さんは支援にあたる医療、介護関係者と相談を重ねたうえで、母にこれ以上の延命治療はしないという判断をした。桂子さんは認知症が進み意思表示が難しい状態だったが、症状が進む前に無理な延命はしないでほしいと話していたため。その後は点滴による水分補給など最低限の処置を行い、2か月余りあとに家族に見守られ穏やかに息を引き取った。真司さんは「悩みながらだったが周りの支えもあっていいみとりができた。本当にほっとした」と話していた。終末期のみとりでは容体が急変して対応が必要になったりとさまざまなことがあると思うが、穏やかに見送ることができたというのは、家族にとっては本当に大きなこと。
人生の最終段階を巡る傾向としてもう1つ、自宅などでのみとりの増加がある。国際医療福祉大学・高橋泰教授、稲沢市民病院・井上雅博内科部長が医師がみとりを行った際に支払われる診療報酬のデータをもとに、2022年度までの8年間に在宅医療を受けて自宅などで最期を迎えた患者の数の推移を調べたところ、2015年度は7万8000人余りだったのが、2022年度は20万1000人余りと8年間で2.57倍に増えていたことが分かった。同じ期間に国内全体の死亡者は1.2倍増えているが、これを大幅に上回る伸びだったことが分かる。増加の背景としては、コロナ禍で病院や施設では面会制限が厳しくなり、家族が最期をみとるのが難しいとして、在宅での最期を選ぶという傾向があったことなどが考えられる。その一方で、入院を希望しても入院できなかったり、あるいは施設に入れなかったりしてやむをえず在宅になったというケースも含まれるとみられる。こうした場合、介護する家族の負担はヘルパーなどのサービスでどの程度軽減されるのかや、費用面のことなど、本人や家族にとっては考えなくてはならない課題も少なくないのが実情。人生の最終段階をどう過ごしたいか、どんな医療やケアを受けたいかという希望はそもそも人によって違うし、その違いこそ尊重されるべきものだと思う。国もそうしたことを前もって考え、家族などと話し合い共有しておくことをアドバンスケアプランニング「ACP」と呼び、その話し合いを人生会議と名付けて広く知ってもらおうとしている。各地で取り組みが進み、こうした考え方が広がること自体は大切なことだが、一方で課題や懸念も指摘されている。本人の希望は体や心の状態に応じて変わることがある。医療や介護を提供する側が希望を一度聞き取ったあと変化に合わせた対応が十分にできなければ、結果として人生の最期の生活の質や尊厳が損なわれるおそれもある。本人の状態を医師が適切に診断していくことはもちろんだが、丁寧な対話やコミュニケーションも一層求められる。
家族にとっては本人の希望を実現するのが現実的に難しいということもある。必要な場合には支援にあたる医療、介護関係者や地域包括支援センターなどに相談し専門職のアドバイスを受けながら、他にどんな選択肢があるかを具体的に考えていくことも大切。最期をどう迎えるかということは、裏返せば実は最期まで何を大事にして生きるかという前向きな問いで、年齢などはあまり関係ないのかもしれない。大切にしたいこと、逆にしてほしくないことなど、できるところから考えて、家族や身近な人にちょっと話をしてみるというのも大切なことかもしれない。
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