- 出演者
- 合原明子
首都圏で相次いでいる闇バイト強盗事件。その19件を改めて取材すると事件に巻き込まれないための手がかりが見えてきた。8月下旬以降、相次ぐ闇バイトによる強盗事件。9月に入ると戸建て住宅が標的に。先月には住民が死亡する事件も発生した。容疑者や被告の多くが闇バイトに応募して事件に関与。今回、私たちは事件に関わったとされる被告の祖父から心情をつづった手紙を受け取った。
8月以降に1都3県で発生した一連の強盗事件。8月末から9月3日まで被害が目立っていたのは貴金属販売店や質店など。その後、さいたま市の住宅が被害に遭った9月18日以降は個人宅への強盗が続く。そして、先月15日の横浜市青葉区の事件では70代の住民が暴行され、死亡。先月17日の千葉県市川市の事件では50代の住民が連れ去られ監禁された。これらの事件をつぶさに取材すると手口にいくつかの共通点が見えてきた。
先月、横浜市青葉区で起きた事件。現金20万円が奪われ住民の命も失われた。亡くなった男性は穏やかな人柄だったという。一連の事件では500万円以上の高額の被害がある一方で多くは数万円から20万円程度の被害。高額の現金があるかないかにかかわらず押し入られていた。手がかりを探るため番組は同じ時期に起きたある事件に注目した。被害に遭った千葉県鎌ケ谷市に住む男性。異変が起きたのは深夜2時ごろ。男性は寝ていたがまだ起きていた妻が物音に気付いた。使われたのは軒下に置いていたコンクリートブロック。およそ10分後に窓ガラスが割られ男が住宅に侵入してきた。男性が「誰かいるのか」と叫ぶと何も取らずに逃走。一連の事件でも住宅の被害は未明から明け方にかけて発生していた。そして、侵入の手口は窓や扉のガラスを割るケースが多いことが分かった。さらに金を奪うためには手段を選ばない強盗グループの姿も浮かび上がってきた。被害を受けた千葉県市川市に住む女性。夜、仕事で家を離れている間に3人組が自宅に侵入。部屋は荒らされ現金のほかキャッシュカードも奪われた。自宅の2階にいた娘は車で連れ去られ、埼玉県川越市内の宿泊施設に監禁された。3人組の目的は奪ったカードの暗証番号を聞き出すことだったとみられる。連れ去られてからおよそ19時間後、娘は警察に保護され命は助かった。一連の事件の大半で強盗グループは侵入した後住民を暴行。粘着テープで手足を拘束する、ハンマーで殴る、刃物で切りつけるなど危害を加えて金を奪おうとする凶悪性も見えてきた。
闇バイト強盗に狙われる戸建て住宅。どのような対策ができるのか警備会社で20年以上防犯対策の研究をしている濱田宏彰(セコムIS研究所研究員)に聞いた。主な侵入経路となった窓ガラスの強化が重要だという。比較的、手ごろな対策は窓ガラス全体に防犯フィルムを貼り付けること。さらに防犯効果を高めたい場合は特殊なフィルム4枚を重ね合わせた強化ガラスの設置。価格は一般的なガラスの4倍程度。一般的な厚さ3mmのガラスは1回で簡単に割れてしまう。一方の強化ガラスはひびは入るが2分間に60回以上たたいても完全には割れなかった。また、侵入が多かった夜間の時間帯の対策として人に反応するセンサーライトや踏むと大きな音がする防犯砂利。住人や周囲が異変に気付くのに有効だという。それでも侵入を許してしまった場合、まずは窓や勝手口から外に逃げること。できなければトイレや寝室など鍵のかかる場所に逃げること。警察に通報する時間を確保できる。それができずに対面する事態に陥ったら現金などをおとなしく渡す。抵抗しないことが大事だと指摘している。
家庭でできる対策として補助錠の設置。ガラスが割られてメインの鍵が開けられても窓は開かず時間を稼ぐことが可能。侵入者が外そうとしても人目につきやすくなるため上側に取り付けることを推奨している。数百円から購入可能で簡単に取り付けられる。もう一つが家の周囲の見通しをよくすること。塀や植木などで外から見えないと犯行を行いやすいため、塀を低くしたり植木を剪定したりすることが効果的。一連の強盗事件について取材情報を取りまとめている井上デスクと伝える。おととい東京・品川区の店舗で新たに闇バイトと見られる強盗未遂事件が起きた。住宅を狙った事件に限っていえば今月3日以降、首都圏では発生していないが警察は体感治安が著しく悪化しているとしている。被害があった住宅は畑の中に1軒だけ建っているような場合や市街地にある場合もある。どういったターゲットが狙われているのかまだ分かっていないので、そういった面では誰もが被害に遭う状況が否めない。一連の事件でこれまでに16の事件で40人以上が逮捕されている。実行役や見張り役が多く逮捕されているが、指示役や事件の首謀者といった者は逮捕されていない。大半が10代から30代。多くが金銭的な理由から闇バイトに応募したという趣旨の供述をしている。
横浜市青葉区の事件で強盗致死の罪で起訴された被告。同居していた祖父がNHKの取材に対し手紙で回答を寄せた。両親が離婚したあと被告は祖父母と同居。一番長く時間を共にしてきたのが祖父だった。祖父が知る孫はけんかをしたことも暴力を振るったこともなく優しい性格だった。闇バイトに応募して事件に関与したとされる被告。捜査関係者によると警察の当初の調べに対し「税金の滞納が数十万円あった」と供述している。
千葉県市川市の事件で逮捕された容疑者。番組は中学校の同級生から話を聞くことができた。この男性は中学2年生の時に同じクラスになり休み時間によく遊ぶようになったという。その後、容疑者はメンズ地下アイドルグループのメンバーとしてライブ活動などをしていた時期があった。しかし、活動を始めてからしばらくしてグループを脱退したとみられている。容疑者を知るという女性たちを取材すると街で姿を見たと証言した。警察の調べに対し「SNSでなんでもいいから仕事くださいと投稿したところ返信があり仕事の指示を受けた」と供述している。ネット社会での犯罪に詳しい東京都立大学の星周一郎教授はゼミの学生から意見を聞いて闇バイトの実態を把握しようとしている。学生たちから多く聞かれたのは働き方への価値観への変化。横浜市の事件で起訴された被告の祖父から寄せられた手紙の末尾は「闇バイトと気付いたときに思いとどまってくれていれば」と締めくくられている。
若者たちの身近で闇バイトが広がっている背景について、東京都立大学法学部教授・星周一郎はアルバイトの求人方法の変化を指摘。かつては求人誌や求人サイトを使うのが普通だったが近年、求人側もアルバイトを探す側もSNS上で直接メッセージをやり取りする方法が浸透してきている。その中に「簡単」「即払い」といった形で闇バイトと見抜けないものまで入ってきて、容易に犯罪グループとつながるようになってしまった。気をつけるべきポイントは個人情報を安易に渡さない。業務内容を詳細に確認する。報酬金額を見比べる。警察は一連の事件を受けて闇バイトに応募しても本人や家族を保護すると呼びかけ始めている。逮捕された実行役らが後に引けなくなった理由として個人情報を指示役に知られてしまって仕返しや家族に被害が加われるかもしれないと供述しているため。実際、警察は先月18日以降、46件の保護したとしている。各地の警察は今回の事件には匿名流動型犯罪グループいわゆるトクリュウというものが関わっているとみている。SNSなどを通じてメンバーを入れ替えながら犯行を繰り返すためグループの実態がつかみにくいというのが特徴。警察は首謀者、指示役の特定に向けて威信をかけた捜査を続けている。強盗殺人という形になると無期懲役か死刑しかない。
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- 匿名・流動型犯罪グループ闇バイト
エンディングの挨拶。