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オープニング映像。
広大な海を泳ぎ続けるシロイルカがいる。名前はヴァルデミールで、人間の年齢に換算すると20歳くらいのオス。海に落としたスマホを拾うなど、人懐っこい。ノルウェー沖で発見された際、ロシア製のハーネスが装着されていた。自然に還すべきか、保護するべきか、ヴァルデミールの姿を追った。
2019年5月、1匹のシロイルカがノルウェー・ハンメルフェストの町へ戻る住民のボートを追いかけてきた。人懐っこさで人気を博し、ヴァルデミール(Hvaldimir)と名付けられた。Hvalでクジラ、dimirはウラジミール・プーチン大統領の名前をもじったもの。19年4月に姿が捉えられた際、体にロシア製のハーネスが装着されていた。小型カメラを取り付けることが可能になっていて、スパイと疑われた。軍事利用を目的とした海洋哺乳類の飼育は冷戦下で始まったとされ、アメリカ海軍では約70頭のイルカが訓練されている。
専門家による調査の結果、ヴァルデミールは手のサインに反応するなど訓練された動物だと判明した。シロイルカは本来、群れで生活し、鳴くことで仲間とコミュニケーションを図る。また、知能の高さから社交的で、訓練しやすいとも言われる。ヴァルデミールの場合、訓練により、自らエサを獲ることができなくなっていた。海洋生物の専門家らによってヴァルデミールは3ヵ月ほどで魚を捕まえることを覚え、小魚が集まるサーモンの養殖場に居着くようになった。ヴァルデミールの安全を守るべく、保護団体「One Whale」が設立された。ヴァルデミールの人懐っこさは筋金入りだが、ボートのスクリューで傷を負うこともある。One Whaleは行動を見守り、野生に戻ってくれることが理想だという。
約30年前、チャールズ・ヴィニック氏は訓練されたシャチ(名前:ケイコ)を野生に復帰させるプロジェクトに参加した。ケイコは生まれ故郷であるアイスランドの海に放されたが、近寄ってきたシャチの群れに興味を示さず、コミュニケーションも図らなかったという。その後、ケイコは病死した。ヴァルデミールの場合、本来の生息域は北極圏だが、ノルウェー南部へ移動。バカンスで南へ向かう人たちの船を追跡したと考えられるという。船や人々との接触が増え、ボートやブイに執着を見せるようになった。
ロシアのムルマンスク州には海軍基地があり、シロイルカらしき姿が確認された。ヴァルデミールはこうした場所から逃げてきたと考えられる。ヴァルデミールは南に行くに従い、漁師が仕掛けた漁具を持ち去ったり、ロープが絡まり、消防艇が出動する羽目に。ノルウェー・オスロ近郊の入江には2年前、子どものセイウチが迷い込んだ。物珍しさから人々が集まり、写真を撮影。やがて、ボートを壊すなど実害が出るようになり、海水浴場に姿を見せた際には騒然となった。漁業局はのちに殺処分した。悲劇を忘れないよう、オスロのマリーナに等身大の像が設置された。像の制作者はヴァルデミールも同じようなことにならないか心配している。
23年6月、ヴァルデミールはオスロ近郊のマリーナに姿を見せた。One whaleが人の少ないところへ誘導するも、ヴァルデミールは再びマリーナへ。ヴァルデミールと泳ごうとする人たちまでやってきて、今度は20kmほど離れた入江まで連れて行くことに。カナダ東部では海洋動物の保護区の計画が進められ、チャールズ・ヴィニック氏が率いている。建設費は約20億円、運営に年間3億円を要するという。ハンメルフェストの町でも保護区をつくる構想が立ち上がっている。24年2月、ヴァルデミールはノルウェー南西部を泳いでいる。最近では鳴き声を発するようになり、他のクジラと泳ぐ姿が目撃されている。ヴァルデミールを長きにわたって見守る海洋生物学者のセバスチャン氏は小学校の子供達にヴァルデミールについて、クジラの生態や保護を伝えている。
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