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与那国島近海では中国軍による演習が繰り返されており、政府は安全保障関連3文書で防衛力の抜本的強化を打ち出した。与那国島ではミサイル部隊の追加配備が決まるなど、有事への備えが進んでいる。住民たちには全員で島の外に脱出する計画が示された。
オープニング映像。
8年前与那国島に開設されたされた自衛隊の駐屯地には約200人が配備されている。島には今、防衛省や自衛隊の関係者が相次いで訪れている。嶋仲地区自治公民館長の大宜味さんは自衛隊員たちと積極的に交流している。自衛隊員とその家族は島民の約5人に1人となっており、父の建設会社を継いだ大宜味さんは自衛隊関係の仕事も請け負ってきた。東シナ海などで中国の動きが活発化していた2008年、与那国町議会は自衛隊誘致を決議した。おととしにはミサイル部隊の追加配備や駐屯地を1.6倍に拡張する計画など強化策を打ち出したが、住民たちは誘致のときは想像していなかった。畜産農家の小嶺さんは20年ほど前に島の議員として周辺の国や地域と交流を深めて島の活気を取り戻すプロジェクトに心血を注いだが、直後に自衛隊誘致の話が持ち上がり島を二分する議論が起きた。自衛隊に頼った町作りに反対した小嶺さんは裏切り者扱いされ、見かねた両親は島を離れた。幼馴染の大宜味さんは小嶺さんほど発言できないが立場を超えて話さなければいけないと考え始めていた。
去年与那国島の人たちは、台湾有事を念頭にした避難計画を突きつけられた。具体的な計画を策定する立場の町は、各地区をまわって説明会を始めた。島から全住民が脱出する計画に、住民からは戸惑いや疑問の声があがった。島民同士が語りづらい空気がある中、事態は先へ進んでいた。安全保障関連の3文書に基づいて全国でインフラの強化が進められ、政府は自衛隊の使用を念頭に空港や港を整備拡充する対象を選び始めた。与那国町は町長自ら空港滑走路の延長と港新設の案を提示し、町議会では町長に説明を求める声があがった。町長は与那国島の港はクルーズ船も接岸できない、インフラを整備する千載一遇のチャンスだと話した。
町が示した計画で港新設の候補地とされた比川地区で臨時の総会が開かれた。比川地区では代々暮らす人たちと自衛隊関係者の人数の差がなくなってきており、自治公民館長は自衛隊の方が多くなる可能性があるので自治のあり方を考えなければいけない、元々の住民の意思とは別に数で押し切ることも可能になると話した。政府はインフラ整備対象の選定を進めていたが、最初の発表で与那国町の空港や港は指定されなかった。町は自衛隊の強化を受け入れてきたが、地域活性化の策は思うようにいかなかった。指定されなかったことを受けて、町議会も政府への要請に乗り出した。
初めて与那国島を訪れたエマニュエル駐日大使はおととし中国が発射した弾道ミサイルが与那国島近海に落下したことに繰り返し触れ、防衛の要衝にあることを示唆した。小嶺さんは島の外から訪れたという見知らぬ人に「国境の島に住んでるからこそ国境を守るのが日本国民の責務じゃないですか」と声をかけられたという。
政府は九州各県と山口県に対して沖縄の離島からの避難受け入れ計画を作るよう求めている。意見交換会に国の担当者が初めて出席した。国は与那国島の避難先を佐賀と示しており、町の担当者が避難の説明をした。住民の避難が終了すると電力の供給が停止すると聞いた住民からは、私たちに選択肢はあるのかという声があがった。政府の担当職員は「義務にはなるけど罰則はない」「それを踏まえてご判断いただければ」と答えた。小嶺さんは家畜は誰が補償してくれるのかと質問し、担当職員は補償について法律上整理はされていないと答えた。ことし8月にインフラ整備対象の追加指定が発表されたが、与那国島の空港と港はまた指定されなかった。
与那国町の糸数町長は避難先と指定されている佐賀県知事と会談した。小嶺さんは「ここに生まれた人間はみんな振り回されている」「僕の先祖はずっと与那国でその系譜を途絶えさせるわけにいかない」「自分の住んでいるところを守りたいが国境地帯だから言えない」と話した。
エンディング映像。