6歳で始めたボクシング。井上が有していたのは天性の才能だけではない。父を信じ、ひたすらジャブを打ち続けた。その姿に惚れ込んだ人がいる。ボクシング冬の時代に世界チャンピオンだった大橋にとって、それは鮮烈な光だった。当時18歳で世界チャンピオンを相手にスパーリング。2012年にプロデビュー、3戦連続KOと波に乗る怪物に、ボクシング人生の大きな転機が訪れる。ボクシング人生で唯一ダウンを奪えなかった存在、この男が井上尚弥を真のモンスターに変えた。井上のプロ4戦目の相手・田口良一。いじめられっ子からボクサーへ、プロ18試合目で日本ランク1位にはい上がった苦労人。実は井上がプロになる前、最初の出会いはあった。きっかけは高校を卒業したばかりの井上から、田口の元へ届いたスパーリングの依頼。田口はリングで対峙した瞬間の戦慄を忘れない。スパーリングにもかかわらずダウンを奪われ中断、叩きのめされた。この悔しさを糧に1年後、田口は日本チャンピオンに。すると初防衛の相手に井上を指名する。運命の試合、田口には秘策があった。両者ダウンのないままラウンドは進む。井上尚弥のプロ人生で唯一、一度もダウンを奪えなかった試合。こうしてモンスターは舞い降りた。田口はこの後、ライトフライ級の世界チャンピオンになると、2019年リングを去るまで7度防衛を重ねた。モンスターを相手に最後まで立ち続けた男は今、トレーナーとしての新しい人生を歩む。