7月上旬の相互関税の本格導入を前に、東南アジア各国では駆け込み輸出だけではなく、水面下で様々な戦略を打ち出している。ベトナムではあの手この手でトランプ政権との交渉を進めようとするなど各国が対応に追われている。ベトナムの首都ハノイに隣接するフンイエン省でベトナム政府は今月、ゴルフ場を中心としたリゾート開発計画を承認した。開発を手掛けるのはトランプ大統領の一族企業「トランプ・オーガ二ゼーション」で、投資額は15億ドルの巨額事業。21日現地で行われた起工式には副社長で大統領の息子のエリック・トランプ氏も出席した。フンイエン省は最高指導者、トー・ラム共産党書記長のふるさとだけに、今後の関税交渉を見すえた動きとの見方もある。ほかにもアメリカからのLNG(液化天然ガス)の購入量増加を表明、格安航空会社が「ボーイング」から旅客機の追加購入を決めたりするなどして交渉を進めようとしている。アメリカから36%の相互関税が示されたタイでは、政府庁舎前でトランプ関税をめぐって抗議活動が起きている。アメリカ産牛肉の輸入拡大を検討していると伝えられているタイ政府に、食肉用の牛を飼育する農家が、主要産業の製造業の輸出を守るため交渉カードの1つにされていると危機感を募らせている。タイ東北部からデモに参加したアカワットさんは自家製の飼料にこだわり質の高い肉を生産してきた。アメリカ産牛肉にかけられている最大50%の関税が引き下げられれば、タイ国内に大量に出回り経営が立ちゆかなくなると懸念を強めている。アジア総局の加藤は「各国は相互関税で高い税率を突きつけられただけに、まさになりふり構わぬ姿勢で交渉を展開している」、「新たな貿易パートナーを模索する動きも出ている。候補の一つがEU(ヨーロッパ連合)」などと述べた。マレーシアの首都クアラルンプール近郊にある農園ではパーム油の輸出拡大に向けた取り組みが始まっている。パーム油はマレーシアの主要産品の一つ。今年1月にEUとのFTA交渉の再開を12年ぶりに決定した。定期的に衛星画像を確認し、森林破壊が行われていないか監視している。EUの環境規制をクリアすることで輸出拡大につなげる狙いで、FTAの締結にも期待を寄せている。パーム油生産会社幹部は「我々のような持続可能性を重視する企業にとってEUへの輸出がしやすくなるチャンス」などと述べた。加藤は「今まさに存在感を強めているのが中国」、「EUだけではなく日本や韓国、インドや中東の国々などとも経済連携を図ろうとしている」などと指摘した。