トランプ大統領は、ベトナムとの関税交渉で「合意に至った」と明らかにした。早速市場が反応している。ベトナムに工場を持ち、アメリカに輸出しているナイキやデッカーズ、ルルレモンなどの企業の株価が上がった。トランプ政権は今年4月にベトナムに46%の関税をかけるとしていた。それが今回の合意で20%に引き下がることから、とりあえず市場からは歓迎された形。ただこうした関税は、今年はじめの段階ではなかったことを忘れてはならない。今回の合意のもう1つのポイントは、関税の割合が2つ設けられていること。ベトナム製品に対しては20%だが、ベトナムを経由する製品に対しては40%という高い関税がかけられている。中国を念頭にした動きとみられている。ベトナムからアメリカへの輸出額の推移(アメリカ国勢調査局/ブルームバーグ)を見ると、2002年から少しずつ増えているが2018、19年から急激に増えているのがわかる。2018年には、トランプ1次政権で中国に高い関税がかかっている。このため関税を避けるために企業は中国からベトナムに拠点を移し、そこからアメリカに輸出を続けたとみられている。合意内容の詳細はまだわからないが、抜け穴をどう封じるのかというのも注目ポイント。ベトナムとのディールを成果として強調するトランプ大統領は、他の国にも合意に応じるよう日本を含めて圧力をかけている。しかし今は停止されている関税が仮に発動されれば、アメリカにとっても負担になるとの報告書「都市部の中規模企業に対する関税のリスク」をJPモルガン・チェースの研究機関が発表した。調査の対象となった中規模の企業は、アメリカの雇用の3分の1を占める重要な存在。大企業ほどの体力がなく、コストを吸収したり輸出先と交渉できない可能性がある。報告書はトランプ関税が発動された場合、アメリカの中規模企業の輸入にかかるコストは最大で1877億ドル(約27兆円)にものぼると指摘した。報告書はさらに別の推計も出している。すでにイギリスや中国などでは、一部関税交渉が合意に至っている。こうした関税が引き下げられた後も、中小企業の輸入にかかるコストは823億ドル(約12兆円)に上る恐れがあるとしている。結論としては「政治家は関税がいかに地元の経済や地方政府の税収にまで影響を与えるかを認識すべきだ」と指摘している。強気な姿勢で各国に圧力をかける背景には、ディールを急がなければアメリカ経済への影響が大きくなることへの懸念もあるのかもしれない。