パレスチナに限らず、世界には対立や憎しみを掻き立てる壁が、至る所に建てられている。東西を大きく分断する象徴だった壁。ドイツのベルリンの壁だ。1989年に壊され、東西冷戦と言われた時代も終わりを告げた。その流れで世界には民主主義が広まった。平和と安定が訪れるかに見えた。しかし見えざる壁が蘇っている。1990年に東西ドイツは統一された。民主化への機運が高まった。ルーマニアなども次々と民主化された。東欧諸国に民主化の波が押し寄せた。1991年には、ソビエト連邦をも崩壊させた。東西冷戦時代、鉄のカーテンを挟んで睨み合いが続いた西側のNATOとソ連を筆頭とするワルシャワ条約機構。ワルシャワ条約機構という軍事同盟もソ連崩壊により消滅する。こうした光景を驚きをもって見ていたプーチン氏。当時三十代の工作員だった。プーチン氏は、ソ連崩壊を20世紀最大の地政学的悲劇だと嘆いた。2022年、プーチン大統領はウクライナに侵攻。プーチン大統領はNATOの拡大阻止を目標とした。NATO加盟国は31。NATOの軍事インフラにはその脅威に応じた対抗措置をとるとプーチン大統領はいう。冷戦時代に逆戻りしたかのように、対立の壁が築かれようとしている。フランシス・フクヤマ著「歴史の終わり」はベストセラーになった。リベラルな民主主義だけが唯一首尾一貫したイデオロギーなのであると記した。著者のフクヤマ氏は、民主主義の後退を招いたという。バランスが崩れ、歪みが噴出した。民主主義を根付かせる試みはうまく行かなかった。中東諸国で民主化運動が広がった。アラブの春が波及したリビアやシリアなどでは多くの難民が生み出された。ヨーロッパでは流入する難民を阻止するフェンスが築かれ、不寛容、排他主義という壁が生み出された。アメリカでも、メキシコとの国境に、巨大な壁の建設が計画された。ロシアのウクライナ侵攻後には、ロシアと接するポーランドやフィンランドで、国境沿いにフェンスが築かれた。ベルリンの壁崩壊から、35年。世界には新たな壁が築かれている。いま、見えざる壁が立ちはだかろうとしている。