先週「USスチールはアメリカ資本であることが不可欠だ」という声明で日本製鉄の買収に反対したバイデン大統領。USスチールの本拠地である東部・ペンシルベニア州では一体何が起きているのか。アメリカの鉄鋼業を代表する「USスチール」はいまから123年前、”鉄鋼王”として知られた実業家、アンドリュー・カーネギーなどが関わって設立した。その後、USスチールの本社があるペンシルベニア州ピッツバーグ市は一大生産地として栄え、「IRON CITY」=「鉄の町」と呼ばれるようになった。しかし今、製鉄所付近を尋ねると、「中学校」と書かれた建物には生徒の姿はなく廃墟となっていた。商店街に車を進めると、店舗の多くが閉鎖されていた。かつては生産量で世界一を誇った「USスチール」だが、その後は日本など外国勢との競争に敗れ27位にまで転落。事業縮小や整理解雇が進められ、地域は産業が衰退した「ラストベルト」の一部となった。日鉄による買収について地元の人に尋ねると「雇用を守り設備に投資して欲しい」「買収するなら地域の雇用を維持すると約束して欲しい」などの声が。住民たちが重視する「雇用」。日鉄はUSスチールの買収後レイオフ(一時解雇)を行わないとしているが、USスチールの従業員を代表するUSW(全米鉄鋼労働組合)が猛烈に反対した。日鉄による買収の何が問題なのか、地元組合幹部・ファーコさんに話を聞くと日鉄はUSWとUSスチ―ルの労働協約を引き継ぐとしている。それは結構なことだ。しかし2026年に現行の協約が執行したあと、日鉄が誠実に労使交渉に臨まず製鉄所の従業員を全員解雇して閉鎖しないと誰が保証できるのか」と話す。USスチールの組合員は労組との関係が良好なアメリカの同業他社に買収されることを望んでいた。トランプ大統領も動き出した。実はUSスチールのスチールの主要な生産施設はペンシルベニアやミシガンなど2024年の大統領選挙で勝敗の鍵を握る激戦州にある。USWに味方しなければ50万人以上の組合票を失うリスクも有る。大統領が反対を示した今、日鉄は買収を完了できるのか。専門家は「『アメリカが資本であることが不可欠』とするのは非常に踏み込んだ表現。買収が完了する可能性は低い。確率で言えば50%以下だろう」と話す。