吉田沙保里の連勝記録を塗り替えた53キロ級代表の藤波朱理は代表最年少の20歳。特徴は技の多彩さ。その特徴が出たのが去年の世界選手権決勝だった。開始直後にタックル、相手の背後に回り込んで2ポイント獲得。レスリングでは相手の背後をとる・場外に押し出す・倒れた相手を90度以上回す・相手を背中から倒すなどでポイントが入る。開始1分でマットに這った状態から押し返して2ポイント。2分過ぎには膝をついた状態から左足で相手の右足をロック、相手の左腕を取って崩して背後を取り2ポイント。3分過ぎにはタックルに来た相手をかわして背後を取り2ポイント。4分40秒で10ポイント差をつけて勝利した。様々な技を繰り出すことで相手を圧倒した。ロンドン五輪の日本代表監督を務めた専修大学の佐藤満教授は「ここまで上手い選手はなかなかいない。守りの中からカウンターが狙え、距離感・間が本当に素晴らしい。安定感抜群なので質の高いオールラウンダー」などと評した。藤波は「いかに相手の力を出させなかったり、自分の力を出すかいうのを考えてやっている。次から次に枝分かれするみたいに先を予測しながらレスリングを組み立てていく。それができるよう体が勝手に動くよう練習を常にしている」と語った。試合中の藤波は手が常に相手の体に触れている。世界選手権の全5試合を分析したところ、その時間は93%。同じ軽量級の先輩・吉田沙保里は54%だった(ロンドン五輪・全4試合)。タックルを得意とした吉田はスピードをつけるため相手と一定の距離を取ることが必要だった。現役時代の晩年は海外勢に研究され、距離を詰められるようになった。タックル成功率はロンドン五輪では83%あったが、リオデジャネイロ五輪では60%に低下してしまった。藤波は相手と距離がない状態でどう技を繰り出すか突き詰めてきた。最重量級代表・鏡優翔と開いた祝勝会を取材していると、この日行われた男子大学生の試合を見始めた。鏡は藤波について、レスリングに対して一番向き合っていると称賛した。藤波は海外選手の動画も見て、試合会場でも他選手の試合を見て技のレパートリーを増やしている。「強くなるのに限界はない。吸収できるものは全て吸収していきたい」と語った。