国近さんへかかった電話の相手は国近さんが住む市営アパートの担当者からだった。国近さんは父親が契約していた市営アパートに亡くなった後も住み続けていた。「公営住宅」への入居権は原則、親から子へ引き継ぐことができない。入居希望者の公平性をはかるものとして、国土交通省がガイドラインを示している。親が死亡した後も住み続けることができるのは60歳以上の人や障害者などに限られている。国近さんも49歳のとき、父親が死亡すると市営アパートからの立ち退きを迫られた。それ以来は不正入居の状態となり、家賃が2倍以上に引き上げられた。2022年に60歳になり入居が可能となったが、契約には連帯保証人が必要となってしまう。市営アパートの家賃は収入によって決まるため、入居者は毎年市に収入を申告しなければならない。しかし国近さんは死亡した弘さんが契約者になっているため、収入申告書を提出できずにいた。そのため市営アパート担当者に相談となったが、国近さんはうまく説明できていないようだったため相談する内容を整理してもう1度窓口へ向かうこととなった。連絡が取れる親戚がおらず、連帯保証人を頼める人がいないことや市営アパートを出ると他に住む場所がないことなどを伝えた。そして連帯保証人の免除が認められ、ようやく入居者となれた。家賃も正規の料金に戻り、およそ1万円下がっていた。代わりに身元引受人の届け出を求められ、身元引受人には死亡した後の手続きが求められることとなる。国近さんはまだ身元引受人を見つけられてはいなかった。