私たちの暮らしに欠かせない介護の現場で、デジタル技術の導入が進んでいる。その背景には、介護の人手不足がある。介護が必要な高齢者の数。介護保険制度が始まった2000年にはおよそ218万人だったが、ことしはおよそ717万人と3.2倍に増えている。一方、介護を支える側は人手不足が一層深刻な状況。介護事業者の年間の倒産件数は今年は先月までに145件と、すでに過去最多となっている。大分市にある施設で進めているのが介護のデジタル化。毎日欠かせない利用者の血圧測定。結果を音声入力で記録することで、かかる時間をこれまでの10分の1程度に短縮した。職員が常に身につけているのはヘッドセット。離れた場所にいても素早く情報共有ができる。利用者のベッドの下にはセンサーが。心拍数や呼吸数、寝返りを計測するためのもの。共用スペースにあるパソコンで利用者全員の状態をリアルタイムで把握できるようになっていて、センサーが異変を感知するとすぐに知らせる。こうしたデジタル化で職員の負担を軽減した結果、離職率は6%と全国平均の13.1%を大きく下回っている。介護現場で大きな課題となっている人手不足。施設の閉鎖という深刻な事態に至るケースも。北海道弟子屈町に住む男性。一緒に暮らす95歳の父親が脳梗塞の後遺症のリハビリや入浴のために通所施設を利用していたが、ことし9月に閉鎖したためサービスが受けられなくなった。そのため、男性の姉が車で片道1時間半かけて自宅を訪れ、2人で父親の入浴の介助をせざるをえなくなった。今月から週1回、訪問介護サービスを受ける予定だが、リハビリは受けられないため父親の運動機能が一層低下するのではないかと心配している。国は、こうした人手不足がさらに大きな課題になることが見込まれるとして現場でのデジタル技術の活用を後押ししている。今年度、介護施設がより効率的に仕事を進める目的でデジタル化を推進した場合、介護報酬が加算される改定も行われた。介護の問題に詳しい淑徳大学・結城康博教授は、介護のデジタル化について、一定の効果を認めつつ「介護報酬を3%から5%ぐらい少なくとも上げていかないと、他産業との人材獲得競争に勝てない」と述べた。