日本一のいちごの生産地である栃木県ではいちご作りを縁の下から支えているある生き物がいる。栃木県では冬から春にかけてピークとなるいちごの収穫に合わせて、多くのミツバチが花から花へと移り農家の受粉作業を支えている。これらのミツバチは、自然に集まってくるわけではない。養蜂家の石川颯は交配用のミツバチを育てて県内のいちご農家に貸し出している。石川は3年半前、宇都宮市の郊外で父親と一緒に養蜂園をオープンした。大学を卒業したあと、一度は県内の銀行に就職したが、栃木が誇るいちごの生産を縁の下から支えたいと28歳で新たな世界に飛び込んだ。石川さんの転身を後押ししたのが交配用のミツバチを巡る課題。ミツバチは近年、気候変動などの影響を受けて世界的に数が減っていると言われている。栃木県内で石川さんのような養蜂家は40軒ほど。1900軒に上るいちご農家にハチを貸し出すには足りないため、半数ほどの農家は遠くの県外から巣箱ごと買い入れているということだが繊細なミツバチは上手に管理しないと受粉がうまくいかない。受粉の成功率を少しでも上げるため、石川が取り組んでいるのがミツバチを貸し出している農家をこまめに回ってハチの数や活動量をチェックしている。ハウスの温度管理から農薬のまき方にまで及んでいて、近くに住む養蜂家ならではのメリットを生かしてさまざまなアドバイスを送っている。さらに力を入れているのが耕作放棄地を切り開いて花を植え、養蜂園の周辺に餌となる蜜源を作り貸し出せるミツバチの数を増やそうとしている。石川はこれまで3年をかけて新たにおよそ15アールの蜜源を育ててきた。こうした取り組みを今後も続けながらいちごの生産とともに栃木の養蜂も盛り上げていきたいと考えている。