最低賃金は労使の代表などで作る国の審議会が示す目安をもとに、各都道府県の労働局の審議会で議論し実際の引き上げ額が決められる。今年の目安は時給50円だったが、この目安を上回る県が相次ぎ、全国平均で51円と過去最大の引き上げとなった。一方で厚生労働省によると、今年8月時点の速報値で実質賃金は前年同月比0.6%減少している。今月1日から最低賃金が1027円から1077円に引き上げられた愛知県。名古屋市内で母親と2人で暮らす30代の女性は、郵便局で時給制の契約社員として週5日働いている。最低賃金の引き上げに伴い月の給与は約8000円上がったが、物価高などで母親と2人の食費は約1万円増えているという。母親の定年も近づく中、将来の暮らしに不安を募らせている。物価高での最低賃金引き上げは企業側も厳しい経営を迫られている。全国最大の84円の引き上げで最低賃金が時給980円となった徳島県。市内で徳島名物の徳島ラーメンを販売する店では、県内の最低賃金が来月1日から引き上げられるのを前に、950円以上だった時給を今月1050円以上にした。これにより人件費は5%上昇。ただ物価高による残業費や光熱費に対応するために既にラーメンの価格を100円値上げしていて、これ以上の価格転嫁は難しいという。専門家は「労働者の暮らしぶりがどう変わったのか調べるとともに、廃業や雇用調整への影響も慎重に検証する必要がある」と指摘する。厚生労働省は経営者側に対して労働者の賃金が最低賃金を下回らないよう呼びかけるとともに、賃上げや設備投資を行った中小企業や小規模事業者などへの助成金を設けて支援している。