「車の排ガスによる大気汚染でぜんそくなどを発症した」と主張する東京や神奈川の住民など158人が国と自動車メーカーに損害賠償を命じるよう国の公害等調整委員会に申し立てている。双方が主張を述べる審問がきょうで終わった。ぜんそくと闘いながら医療費を全額助成する制度を設けてほしいと訴える患者の実情を取材した。今回の申し立てに加わっている進藤光子と娘の里江は1970年代から都内の幹線道路沿いの住宅で暮らしてきた。生後数か月でぜんそくを発症した里江はたびたび入院して治療を受けた。今も季節の変わり目や気圧の変化などで悪化することがあり毎日3回の服薬が欠かせない。1970年代以降、石油ショックなどの余波で車のディーゼル化が進み都市部を中心に大気汚染が深刻化、全国各地の患者らが医療費の助成などを求めて国や企業などを訴え解決金の支払いや環境対策の実施などでいずれも和解が成立している。そして2008年には都内の患者だけを対象とした救済制度が設けられた。しかし、こうした制度は全国には広がらなかった。こうした中、患者らはおととし、国と自動車メーカーに対して治療費など1人当たり100万円の損害賠償を命じるよう公害等調整委員会に申し立てた。双方が主張を述べる最後の審問が行われ「ぜんそく患者の女性が苦しみや経済的負担はすべて自己責任で解決しなければならないのか。これからは治療費が軽減され生きる喜びを感じて暮らしたい」と述べた意見書が読み上げられた。一方、国やメーカー側はこれまでの審問で適切な対応を取ってきたなどとして、いずれも法的責任はないと主張している。里江はぜんそくのほか脳血管の難病もあり障害年金を受給してグループホームで暮らしている。ぜんそくの患者に医療費の一部を助成する東京都の制度を利用しているが月6000円の自己負担は重く全額助成の制度の実現を願っている。環境政策に詳しい東京経済大学の尾崎寛直教授は「排ガスによる被害は国レベルの救済制度が空白状態になっている。被害に遭われた方々が安心して医療にかかれる制度があることは非常に大事だ」としたうえで今回の申し立てについて「車が集積する都市部で車に由来する大気汚染が深刻になったということを改めて知るきっかけになるのではないか」としている。公害等調整委員会は今後、双方の意見を聞く非公開の協議を行うとしたが、ここで合意に達しなければ来年にも国や自動車メーカーに賠償の責任があるかどうかの裁定を出すと見られる。