16年に渡ってドイツを率いた、アンゲラ・メルケル元首相。「ヨーロッパの盟主」「ウクライナ侵攻の責任者」など様々な評価をされてきた宰相が来日し、単独インタビューが実現した。激動するポスト・メルケル時代を横目に書き上げた回顧録のタイトルは、「自由」。メルケル元首相は「テーマの『自由』は、私の人生全体を貫いている。自由は民主主義国家にしかなく、そのために私は活動してきた」などと語った。東西冷戦の始まりと共に生まれた分断国家ドイツは、その東側は貧しく、どこに秘密警察が紛れているかわからない灰色の世界だった。1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊し西側になだれ込む群衆の中にメルケル氏もいた。政治の世界に飛び込んだメルケル氏は、副報道官を皮切りに閣僚、党首、ドイツ史上初の女性首相へと駆け上がっていった。就任以来4期16年の長きに渡り国を導き、ヨーロッパの羅針盤として各国の指導者たちと渡り合ってきた。首相退任とともに政界を引退したが、国際社会は今冷戦崩壊後最大の揺らぎの中にある。メルケル氏はアメリカのトランプ大統領について、「常に敗者と勝者しか存在せず、“ウィンウィン”を知らない」などと述べた。ロシアのプーチン大統領は、メルケル氏の首相退任前に花束を贈った半年後、ウクライナ侵攻を開始した。その人物像について、メルケル氏は「彼はウクライナとベラルーシが独自の道を進むのが許容しがたいのだ」と語った。2014年、ロシアは軍事力を背景に一方的にクリミアを併合。メルケル氏はプーチン大統領とゼレンスキー大統領の対話も仲介したが、パンデミックがきっかけとなり断絶したという。ロシアとの関係を深めていったメルケル政権の融和的な態度が、ウクライナ侵攻を招いたのではないかとの批判に、回顧録では「関係を維持したのは正しかった」と主張している。