歴史的な岐路に立つイギリスの難民政策について税所解説員が解説。難民申請を目的にフランスから小型のボートで海を渡ってきた人を6500km離れたアフリカ東部のルワンダに強制移送する政策。イギリス政府は早ければ数週間のうちに第1便を離陸させたいとしている。発端は2018年以降難民申請を目的に小型のボートで海を渡ってイギリスに不法入国する人が急増したこと。当時のジョンソン首相が資金援助の引き換えにルワンダに移送する計画を打ち出したが、計画にはヨーロッパ人権裁判所や英国の最高裁判所からストップがかかる。するとスナク首相はこれ以上の裁判を阻止すべく、この計画は人権法の適用を受けないと定めた法律を成立させた。政府側がここまでこの政策を推し進める背景の一つは来年の総選挙を前に主要政策に掲げた不法移民で成果をあげたいという思いなどがある。また移民の受け入れが負担となっているのも事実で、ボートで到着した人は2023年2万9437人。今年は5月8日までに8826人に上っている。さらに、審査をする人の人手不足などから過去の審査が滞り難民認定を待っている人は2024年の年初で9万5000人に膨れ上がっている。こうした人たちを収容する施設やホテルなど難民のための一連の費用は年間40億ポンド(およそ8000億円)に達している。イギリスでは高齢化社会が進む中医療制度が、綻びを見せ学校や道路の老朽化が問題となるなど市民の暮らしにも影響が出ている。さらに対ロシアを念頭に防衛費の増額も必要で、自分たちに余裕はないと感じる人が増えているが、この政策には費用対効果の観点などから異論もあり野党・労働党も反対姿勢を示している。イギリスは、すでにルワンダに2023年末までに2億4000万ポンド日本円で480億円を払っており、2026年までに総額3億7000万ポンドに増える見通し。さらに移送が300人を超えた段階で1億2000万ポンド支払うというさまざまな追加の支援を約束している。イギリス以外の国、イタリアなどでも苦慮している移民や難民の問題もある。イギリスの難民政策についてイギリス政府は今後難民に対し“安全で合法的な難民申請ができる”とし事実上拡大できるか検討するとしているが、まだ具体的な動きはない。イギリスは国際社会が掲げる難民条約を軸にしたこれまでの制度とイギリスが感じる限界にどう折り合いをつけるのかという問いに長い間向き合うことになると専門家は話している。税所さんは、イギリスの議論を通じ見える難民政策の課題や限界などにどの国も目を離さないようにしなければいけないなどとコメントした。