日本百名山の1つに数えられる伊吹山。標高1377メートル、位置は琵琶湖の北東、滋賀県と岐阜県の県境に位置する山。麓の伊吹地区ではこの夏、土砂災害が3回も繰り返し発生し、7軒の住宅に土砂が流れ込むなど大きな被害が出た。伊吹山の土砂災害を調査してきた東京農工大学・石川芳治名誉教授が原因として指摘したのは「“シカ”が食べたために植生(植物)がなくなって、そこで(土壌)浸食が起こった。もとをただせば“シカの食害”による影響ということになる」。伊吹山のシカは、かつては冬の寒さによって一定数が死んでいた。しかし、地元の滋賀・米原市によると温暖化で冬を越しやすくなったほか、近年、ハンターが減少し、周辺の山から流入してきたことなどからその数は増えている。市によると、現在は適正とされる数の10倍以上、1平方キロ当たり60頭のシカが生息しているとみられ、大量の草を食べている。20年前の写真と比較すると、シカが草を食べ尽くし地面がむき出しになっていることが分かる。通常、草が生えている山は根っこなどによって土の中に空洞があるので雨が降っても水を吸収する。しかしシカが増えて草がなくなった伊吹山では土の中の空洞がなくなって保水力が失われ、雨水で斜面の土も削れてしまう。その土砂が勾配の緩やかな中腹にたまる。伊吹山での3回目の土石流は、この中腹にたまった土砂が雨水とともにあふれて、さらに下の斜面の石なども巻き込みながら麓の家を襲ったという。3合目付近、上流から流れ出た土砂が堆積したという場所は勾配が緩く、大量の土砂や石がたまっているのが分かった。土石流はこうした土砂や雨水があふれて、一気に谷川を下ったことで起こったという。