小説やエッセーなど1600冊を超える作品を世に出した作家、森村誠一は去年、90歳で亡くなった。作家としての原点はふるさと埼玉県熊谷市での空襲の体験。終戦間際の1945年8月14日の熊谷空襲。260人以上が亡くなり森村の実家近くを流れる川の周辺は大きな被害を受けた。当時を語る森村の姿がNHKに残されている。さまざまなジャンルの作品に反戦への思いを投影した森村は活動の拠点を東京に置いても原点となったふるさと熊谷を生涯忘れることはなかった。亡くなって1年。改めて、その思いを深く知る人たちを訪ねた。妻の千鶴子は今回、テレビメディアの取材に初めて応じ、森村について話を聞かせてくれた。創作意欲にあふれる森村を間近で見てきた千鶴子。原動力となったのはやはり戦争体験だった。出版社の編集者として40年にわたって担当してきた永井草二は、森村がたびたび口にしていたことを思い出していた。作家、森村誠一は戦争体験をもとに人間の本質である生きる意味を問い続けたのではないか。お墓に刻まれたことばの意味をかみしめている。晩年、認知症に苦しんだという森村だが、それでも妻の千鶴子が目にしたのは、諦めずに病と戦い続けようとする姿だった。亡くなる数か月前、悪化する体調の中で最後に熊谷を訪れたときの写真を見て、千鶴子は今すぐにでも創作活動に取りかかりそうだったと振り返った。森村が生涯貫いた思いを次の世代が受け継いでくれることを願っている。