能登半島地震の発生から1年がたつが埼玉県では1人の漆塗り作家が被災地への支援を続けてきた。伝統工芸の輪島塗などを生産する多くの職人たちが復興に向けて歩みを進める中、遠く離れた地から支えてきた漆塗り作家の思いを取材した。蓮田市の漆塗り作家、加藤那美子が制作しているのは動物の柄や水玉模様を描いたおわんや弁当箱。全国のギャラリーなどで人気を博している。加藤が漆塗りの技術を身につけたのは石川県輪島市、高校卒業後、市内にある工房などでおよそ9年間、学んだ。去年1月に起きた地震とその後の豪雨による被害でかつてともに過ごした仲間たちも被害を受けた。少しでも被災した職人たちの力になりたいと、これまで地震の被害を免れた漆器の販売会を開くなどしてきた。そして去年11月、輪島市を訪れて仲間たちと再会を果たした。そのうちの1人、漆塗り職人の鎌田克慈はかつて苦楽をともにした加藤の先輩。地震のあと住まいを失ったスタッフが辞めざるをえなくなり今は僅かな人手で作品を作り続けている。厳しい状況の中、加藤からの連絡や輪島への支援は途絶えることがなかった。一方、加藤は今回、1人の職人から漆塗りに欠かせないある道具を手渡された。強度を高めるため布地を貼り付けたり漆を塗り込んだりするのに使う。へらを渡した蔵田満は輪島塗などに使われる木材を加工する木地師で加藤とは20年以上交流を続けてきた。地震で被災した建物を修繕し去年6月ごろから事業を再開したものの豪雨で再び被害を受けた。今も道具や機械の修理が続いているため作業できる量は地震前の半分に満たない。募金を集めて送るなど支援を続けてくれる加藤に今できる恩返しとしてへらを渡した。被災した職人たちの思いを受け止めて、加藤は新たな支援を始めている。輪島から持ち帰った未完成の皿や茶たくを被災地で職人が不足していると聞き作業を買って出ることにした。第2のふるさとの復興に向けて、加藤はこれからも埼玉から支援を続けていく。