抗がん剤治療などで髪が抜けてしまう人が利用するウイッグは家の中や寝ているときは外すことがほとんどで災害時には装着しづらいとの声がある。そこで避難所などでも使いやすいウイッグを長野市の美容室が開発した。長野市にあるウイッグ専用の美容室を営む美容師の鈴木浩子はウイッグのカットや手入れのほか帽子などの商品開発を行っている。家族のがん治療を経験し抗がん剤の影響で見た目の変化に悩む人たちの力になりたいと6年前、この店を立ち上げた。最近、多くのお客さんからこんな相談を受けた。通常、ウイッグは頭に固定するため専用のネットをかぶった上に装着する。常に頭が締めつけられるうえ留め具が肌に当たりウイッグのまま眠ることは難しいという。そこで開発したのが帽子と髪の毛が一体になった防災ウイッグ。簡単に着けたり外したりでき、柔らかく伸縮性のある帽子は締めつけずストレスなく眠ることができる。防災ウイッグのヒントは自身の経験だった。令和元年の台風19号の際、自宅前の水路が増水し避難所で不安な夜を過ごしたことをもとに考案した。長い避難生活でも衛生的に使えるよう髪と帽子は取り外して洗えるようにしたほか防災バッグに入れても型崩れしない作りにした。防災ウイッグは店の工房で作られている。手がけるのはみずからも抗がん剤治療を受けながら働くスタッフたち。その1人、小林英美がウイッグを作る際、当事者として特に大切にしたのは見た目の自然さ。より自然な髪に見えるよう前髪の長さや髪の量などを細かく調整している。この日、出来上がった商品をお客さんが受け取りに来た。安心を届ける防災ウイッグ。鈴木は被災しても自分らしくいたいと願う人たちの役に立ちたいと考えている。美容室では男性用のウイッグの開発にも取り組む予定だという。