そもそもなぜ、今回21万トンが放出されることになったのか解説。農林水産省によると去年収穫されたコメは前年よりも18万トン増えたと見られている。一方でJAなど主な集荷業者が買い集めたコメは前年よりも21万トン減っている。生産量が増えたのになぜ買い集めた量が減ったのか。そして、なぜ価格高騰につながったのか。コメの生産や流通に詳しい専門家の宇都宮大学・小川真如助教は今回の価格高騰の背景にさらなる値上がりを期待して動いた業者がいたと指摘する。新規に参入した業者などが価格がさらに上がるのを待って売り渋ったことが消えた21万トンの一部となり、流通が滞る要因の1つと見られるという。今後、備蓄米が放出され、さらなる高騰を待っていた業者がコメを市場に放出すれば、コメの全体の価格は下がるのではないかという。一方で政府の備蓄米はスーパーに並ぶような銘柄以外にもさまざまな産地のコメがあるため、放出されても最初に流れるのは外食や業務用ではないかという。そのうえで小川助教は「備蓄米が入ることで中食、外食産業などの需給が緩和。その結果としてスーパーのコメ価格が落ちてくる」と話す。一方、農業政策に詳しい別の専門家の三菱総合研究所・稲垣公雄研究理事は消えた21万トンの背景について投機的な理由だけではないと指摘する。調査対象になっている集荷業者はJAなどの主な業者だけで去年のコメ不足などをきっかけに流通がさらに多様化した結果、多くが集荷業者を通さない取り引きに回ったと分析している。実際、農作物などを農家から直接購入できる通販サイトを運営する会社に取材してみると、サイトで取り引きされたコメの量はことし1月だけでおよそ54トン。去年の3倍以上。こうした流通の多様化の流れについて稲垣研究理事はそうした流れは今後も止まらないだろうとしたうえで「令和のコメ騒動を受けて底が見えにくくなっているのは課題。農業に関しては一定程度、きちんと捕捉、確認していくことは必要」という。備蓄米は来月の半ばにも集荷業者への引き渡しが始まる見通し。江藤農林水産大臣は来月下旬以降、スーパーにあるコメの在庫が切り替わり次第、消費者の手元に順次届くという見方を示している。