- 出演者
- 井上二郎
私たちの身近にある樹木にリスクが。今、各地で相次ぐ倒木の被害、老朽化などで根や幹が腐った木が家屋や人を襲っている。国が去年行った調査では街路樹だけでも年平均5215本もの倒木が明らかになった。景観向上や環境対策の役割を担う街の樹木だが、今管理が追いつかず倒木リスクが高まる事態となっている。
オープニング映像。
9月、東京・日野市では最大8mにもなるイチョウの枝が落下した。帰宅途中の男性が下敷きとなって亡くなった。落下した枝は全部で10本、総重量は約1トンとみられる。管理を担う市は樹木医に依頼し事故原因を調査しているが、その原因は今も分かっていない。倒木による被害は観光客や市民があつまる場所でも起きている。京都や松山でも木の老朽化や風の影響などで倒木があった。走行中の車を襲った死亡事故も起きている。5年前、小学生の息子を倒木で亡くした内山明日香さん。息子の辿皇さんは11歳だった。事故が起きたのは佐賀県唐津市の虹の松原を通る県道。車で書店に向かう途中だった。高さ7mほどで折れた松にはシロアリの被害が見つかった。車のフロントガラスや天井は大きく壊れ、辿皇さんがいた助手席には木が突き刺ささっていたという。この事故を受け、県は安全対策を強化。専門の点検員が週2回、松の見回りを実施している。しかし、その後の5年間で倒れた木と車が衝突するなど7件の事故が起きている。相次ぐ事故について県は確実に倒木を予測するのは困難で管理の難しさを痛感しているとしている。
なぜ今倒木が相次いでいるのか?街に樹木が盛んに植えられたのは道路整備が進められた高度経済成長期。街の景観や公害対策などが目的だった。街路樹だけでもその数は全国で630万本、この30年余りで1.7倍に増えた。温暖化対策などでその役割の重要さが増す一方、専門家は老朽化による倒木のリスクが高まっていると指摘する。倒木のリスクをどう減らしていくのか、自治体は課題に直面している。街路樹の多くが高度経済成長期に植えられた東京・多摩市。道路交通課では約1万5千本を職員3人で管理している。今年2月に雪の影響で桜が2本倒木、本格調査を行ったのは7年前だった。市では倒木が確認された桜並木で桜450本の調査を専門業者に委託した。木の腐り具合を測定する。調査にかかる費用は約3100万円。こうした調査を全ての木に行うのは不可能だという。木の伐採を巡っては市民から様々な意見が寄せらている。
竹内智子さんは何の原因もなく樹木が倒れることはないが、倒木は甚大な被害になりかねない、すべての樹木が恐ろしいわけではなく状況を正しく理解して正しく対応することが大事だという。いま、都市の樹木はリスクが高まっている。環境保全の観点から大量に植えられた樹木が近年は気候変動などで新たな負荷がかかっているといえる。危険な樹木のチェックポイントを紹介。空洞、傾き・揺れ、枯れ枝、キノコなどがある。国土交通省は自治体に点検状況などの確認を求めているが、東京23区の報告書をみてみると台帳がない、マニュアルがない、予算が足りないという課題が出てきた。
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- 国土交通省
街全体が豊かな緑に覆われ、杜の都と呼ばれる仙台。徹底した街路樹の管理を行っている。カルテを作成し、少なくとも5年に1度検査を行い、樹木の異常に早めに対処しようとしている。きっかけは15年前の事故。街のシンボルでもあるけやき並木の木が突然倒れた。原因は根本の腐敗、異常を把握できていなかった。市では4万8000本の街路樹すべてにIDを付与し、データベースに更新している。カルテとデータを組み合わせて管理することで、倒木リスクの見落としをなくす試み。さらに、民間業者と連携して街路樹を健全に保つ取り組みもしている。年2回、剪定の講習会も開いている。管理の基準を合わせることで、街全体の街路樹で安全と景観を両立させようとしている。
東京・町田市では街路樹の在り方を再検討した。去年から街路樹の在り方を量から質へと切り替えた。10年間の計画では、通行に支障のある街路樹の撤去や樹木の感覚の調整などによって市内にある街路樹を3分の2に削減する。かわりに景観や環境保全に必要な樹木の維持管理を手厚くし、街路樹の価値を高めることを目指している。住民に街路樹への関心を持ってもらうために市では、切った街路樹を家具に蘇らせ、市役所の食堂などで活用している。
竹内智子さんは街の価値を市民と行政で共有している仙台市の取り組みは理想だとした。住民参加をどうするのかが課題。多摩市では専用アプリで樹木の異常を報告してもらうことをはじめ、ワークショップで意見交換するなどの取り組みをしている。竹内智子さんは市民と一緒に考えるのは重要だと話した。事例は日本全国にあるが、活動が行政と結びついていないことは課題だという。