- 出演者
- 新井隆太
トラックドライバーの時間外労働の上限が規制される“2024年問題”。4月から日本全体で14.2%輸送力が不足すると試算されている。東北の物流はどうなるのか、最前線からの報告を伝える。
今回はトラックドライバーの働き方について考える。運送会社のトラックは荷主の元で荷物を積み込み、届け先に運ぶ。日本の物流の9割がトラックで運ばれている。トラックドライバーの働き方が4月から大きく変わる。これまで時間外労働に法律上の規制はなかったが、年間960時間の制限が設けられる。長時間労働を防ぎ健康を守ることが期待される一方、これまで通りの物流が維持できなくなるおそれがある。
秋田市に配送拠点を置く運送会社では140人のドライバーが県内外に食料品などを運んでいる。ドライバーの1人、佐々木さんの1日に密着。午前6時に食料品を積んで出発。この日は県内の飲食店や福祉施設など36か所を回る。1軒目に到着すると下ろした荷物を自ら建物の中に入れ、一つひとつ数があっているか確認する検品作業を段ボール3箱分行った。届けたあとのこうした作業はこの日回る36か所中20か所で予定されている。ある配送先では鍵がかかっており、電話をかけて開けてもらうというロスも。午前11時過ぎに22軒目の配送先に到着。荷物を店の奥に運び、さらに奥にある冷凍庫まで運びいれる。こうした運転以外の作業、荷物を積み下ろす際の待ち時間、荷物の運び入れ、仕分け・検品。全国のトラックドライバーを対象にした国の調査では、運転以外の作業が労働時間の3割を占め、長時間労働の原因の一つとされている。これらは誰が担当するか曖昧なまま商慣習としてドライバーが長年行ってきた。佐々木さんが配送を終えて会社に戻ったのは午後5時。この日の運転以外の作業は4時間30分で、時間外労働は約4時間発生した。会社では運転以外の作業を見直し、時間外労働の削減につなげられないか関係先と協議を続けている。
4月から徹底した削減が求められるドライバーの長時間労働。荷物を預ける荷主側にも懸念が広がっている。福島・いわき市の花農家・薄葉さんは花を栽培して多くを首都圏に出荷している。薄葉さんはこれまで通りに花を運んでもらえるのかを懸念している。この地域の花農家はそれぞれ離れた場所に点在しているためトラックが回るのに時間がかかる。さらに、農家によって種類や生産時期が異なる。花の運搬には特殊なトラックが必要で、現在この一帯に来てくれる運送会社は2社。産地として生き残るために何かできないかと、薄葉さんは仲間の花農家に声をかけて話し合った。集積所を作りそれぞれが花を持ち寄るアイデアが出て、運送会社とも話しあいながら引き続き検討を重ねていくことになった。東北の一次産業は生産者の高齢化が進み、先細りが課題となっていた中で2024年問題が拍車をかけないかが懸念されている。
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- いわき市(福島)
スタジオで矢野裕児さんに話を聞く。矢野さんは「2024年問題は特に長距離輸送に大きな影響を与えることが考えられ、東北地域では道路状況が良くない地域や東京から離れている青森県などで影響が出ると思われる。消費者にとっても値段が高くなる鮮度が落ちるなどの影響が出る」などと話した。
東北地方のある運送会社の社長が実情を知ってほしいと取材に応じた。この会社は20人ほどのドライバーを抱え、大手運送会社などから仕事を委託されてきた。中小零細の会社はこうした下請けによって事業を成り立たせいている。今年1月からの契約書には大型車での長距離輸送の運送料は国が示した標準的な運賃の半分以下が示されていた。一方で発注元は4月から強化される改善基準告示をしっかり守るよう求めていた。このルールに従って運転時間を減らすためには「せめて高速代を負担してほしい」と伝えたが却下されたという。働き方のルールを守ろうとすれば仕事がなくなりかねない現実。社長は生き残るために4月以降も長時間労働をドライバーに強いる中小零細の会社が相次ぐとみている。
矢野さんは「物流は関係者が多く、力関係がある。中小零細企業が立場的に弱く要求されてもなかなか言えない。政府も対策をとろうとしていて、待ち時間の法制化やトラックGメンなど様々な形で監視していこうという動きが出ている」などと話した。
JA全農あきたでは、これまでトラックドライバーたちが行っていた積み込みの準備を一部で職員が行うようになり、ドライバーの作業は大幅に減ったという。コープ東北は物流の安定のために、荷主としてトラックドライバーの働き方や待遇の改善に協力する姿勢。物流によって豊富な品々がいつも並ぶ光景は多くの人の力によって支えられているということに改て目を向けなければならない。
エンディング映像。
NHKスペシャルの番組宣伝。
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2024年3月11日(14:05)