- 出演者
- 佐藤二朗 片山千恵子 清水節
オープニング映像。
「ゴジラ」は生誕から70周年を迎えた。佐藤二朗は金子修介監督が手掛けた「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」に防衛軍士官役で4秒ほど出演している。第1作「ゴジラ」はアメリカの水爆実験により、第五福竜丸などが被爆した事件に着想を得たとされる。
特撮映画に精通する清水節氏は「ゴジラ」のひな型について、「キノコ雲のような形の顔をしている。形の中にもテーマ性、メッセージ性を込めている」と語った。「ゴジラ」のプロデューサーを務めた田中友幸氏は「人類がつくりだした水爆に人類が復讐される」というテーマを据えた。金沢工業大学ではゴジラをはじめとする25体の特撮怪獣の写真を用意し、どのような印象、感情を受け取るかアンケート調査。力強く、恐怖を醸しながら、二足歩行で白目があるなど人間らしい要素を持ち、渡邊教授は「ヒトによっては感情移入しやすいデザイン」と分析した。劇中でゴジラは人々を襲う一方、水爆実験によって目覚めさせられた被害者と表現されている。
「ゴジラ」の撮影で、円谷英二氏はコマ撮りではなく、人間がスーツを着てゴジラを演じさせるという手法を採用した。重さは100kg以上に及んだ。さらにハイスピード撮影により、ゴジラをスローで撮影。作家の三島由紀夫は「ゴジラ」を鑑賞し、高く評価した。
「ゴジラ」が公開される2年前まで、日本はGHQの占領下にあり、原爆被害の実態を伝える報道は規制されていた。本多猪四郎氏は戦地に赴いた経験があり、「ゴジラ」を通して戦争の犠牲を表現した。劇中で避難所に身を寄せた人の中には親と死別した子どもの姿がある。
映画「ゴジラ」でゴジラが街を襲撃するシーンでは重低音が鳴り響く。木管楽器のコントラファゴットが使われているが、国内に2つしかなかったという。また、「メインタイトル」では高音を担当するバイオリンが低音を奏でている。作曲家の和田薫氏は「本来であれば、チェロが音域的には向いている」と話す。横山真男教授は「バイオリンの音色にノイズが乗っていて、押しつぶしたような音色になる」と概説した。それが迫力、ゴツゴツとしたイメージに寄与しているという。作曲家の伊福部昭氏は戦時中、飛行機の開発に徴用され、放射線を大量に浴びて重い障がいが残った。「ゴジラ」によって破壊された街の映像にあわせて曲が流れるが、桐朋女子中学校・高校に600人を集め、合唱シーンを撮影した。作曲したのは伊福部氏で、撮影にも参加して指揮棒を振るった。
ゴジラ映画の中には社会情勢を反映した作品がある。「ゴジラ対ヘドラ」では社会問題となっていた公害を体現した存在としてヘドラが登場。84年公開の「ゴジラ」では米ソがゴジラを倒すために核兵器使用を提案するも、首相は非核三原則を持ち出して拒否する。「シン・ゴジラ」は東日本大震災、福島第一原発を彷彿とさせるストーリーだった。
アメリカで「ゴジラ」は再編集されて公開されたが、日本のオリジナル版とは異なる箇所が散見される。ラストシーンでは原水爆を疑問視するセリフが削除されている。当時、米ソ間で核開発の競争が激化していて、核兵器の是非を問うようなセリフは使えなかったと考えられる。2014年、ハリウッドでオリジナルのゴジラ作品が制作。制作者たちは原爆投下の歴史と向き合おうとしたが、アメリカ政府は空母、戦闘機の撮影許可を与えるかわりに原爆への批判的内容の削除を要請していたという。被爆した父親の時計を見せる短いシーンを描くのでやっとだったという。2023年、敗戦直後の日本を舞台にした「ゴジラ-1.0」が公開。アカデミー賞で視覚効果賞に輝き、アメリカでは日本の実写映画として興行収入1位を記録した。山崎貴監督にとって、アメリカでのヒットは予想外で、公開される際に「大丈夫ですか?」と思っていた。だが、「我々は今、本当に戦争している国なんだ」と言われ、山崎監督は「僕らよりも感情移入しやすいのか」と感じたという。
清水氏は「ゴジラは人類が抱えてきてしまった危機に対するメッセージを持っている。ゴジラは黙して語らないが、その存在だけで我々に警鐘を鳴らしてくれ、覚醒させてくれる」などと語った。
「歴史探偵」の次回予告。