- 出演者
- 合原明子 大宮喜文
立体駐車場で今、思わぬリスクが指摘されている。今年10月、イギリスで発生した火災で車1000台以上が燃えた。同様の火災には日本でもあり、ことし8月、神奈川・厚木で150台以上の車が燃えた。立体駐車場火災として国内最大の被害となり、専門家たちの間に衝撃が走った。今回番組では現場の防犯カメラの映像を独自に入手し、被害を広げたメカニズムの一端が初めて見えてきた。
全国に1万ヵ所以上作られてきた立体駐車場。火事が起きても大規模化しにくいとしてスプリンクラーなどの設置義務はない。こうした立体駐車場で起きた火災の被害は、最大でも6台に留まってきた。ところが厚木市で起きた今回の火災は、152台の車が燃える事態となった。なぜここまで大規模になったのか。取材から浮かび上がってきたのはこれまで想定されていなかった火災のメカニズムだった。
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火災から2か月。交渉の末、厚木市の現場にNHKのカメラが入った。 火元となった駐車場の2階には100台以上の車が当時のまま残っていた。いかに激しく燃えたかを物語っていた。火災は1台の車から始まった。火元となった車は停車後まもなく、エンジンの下から出火した。15分ほどで駐車場全体に煙が充満し、4時間に渡っても燃え続け最終的な被害は152台にのぼった。マルハン厚木北店 マネージャーの磯野大介さんは、「車の方に消化に向かっている時にかなり大きな爆発音がボンと鳴ってしまったので、これはちょっと消化は危険だと判断して」と振り返った。過去に行われた実験の映像では両隣に燃え移るまで約20分。
なぜ火災は想定を超えるスピードで広がったのか。番組では防犯カメラの映像を入手。防犯カメラは出荷元となった2階を2つの方向から記録していた。午後2時37分、カメラは火元とみられる車をとらえていた。約6分後には、画面に黒い煙と見られるものが。しかしその後も次々と車が入ってくる。停車から8分後、車の前方付近が燃えているのが確認できる。東京理科大学 教授の関澤愛さんが注目したのは炎が確認できた約3分後、床に広がっていく炎。「燃料が流れて車の左右あるいは後部報告にも火の付いた油が流れている可能性がある」と語る。床に広がった炎はプール火災と指摘。油などの液体の表面が燃える状態で、ここから関澤さんが導き出したメカニズムでは、車から漏れ出した燃料などに火が付き流れることで炎をが広がり、下から火で炙ることで燃料タンクなどに引火し、次々と車に火が燃え移り炎症が早まった可能性があるという。火元の床で炎が確認された約30分後、離れた場所でも床が燃えている様子が確認できた。
さらに火元の車以外からも火が出た可能性を指摘する専門家もいる。法科学鑑定研究所の冨田光貴さんが注目したのは、天井の焼け方。「鉄骨が湾曲していますので600~800度ぐらいには達したんではないかと」「火元から天井を炎が伝わってこの周辺の温度が高音になってきたことで同時にですね この火災が一気に発生拡大した」などと話していた。浮かび上がってきたのはフラッシュオーバーと呼ばれる現象。炎や熱を帯びた煙が天井を伝って周囲に広がることで駐車場全体の温度が急激に上昇し、それによって火元から離れた場所でもタイヤなどが燃えだし火災が広がった可能性があるという。現場の車が火元からの距離に関わらず、同じような焼け方をしている状況がフラッシュオーバーと同様の現象が起きた証だと指摘する。本来密閉された空間で起きる現象がなぜ立体駐車場で起きたのか。専門家がスタジオで解説する。
東京理科大学教授の大宮喜文さんもプール火災、フラッシュオーバーのような現象が起きたのではないかと分析しているという。1台がそれだけ火が大きくなると周りに延焼していくスピードが早くなっていく、芋づる式に広がっていくということが言える、などと説明していた。大宮はもう一つ、煙が風上から風下に流れる映像があったが、風が流れている場合に、風下に火炎や煙が流れていくと当然高温の状態になるので、燃えていない自動車が予熱で温められ、少しのきっかけでどんどん延焼していく準備ができているなどと解説した。取材に当たった小林奈央は、消防は火災発生から約15分後に到着していて、専門家は対応が遅れたわけではないと評価しているといい、総務省 消防庁によると、車両火災ではこれほどの大量の車が一気に燃える事態はほとんど想定されていなかったといい、今後は早い段階から多くの消防隊が活動できる仕組みを整えたいとしているという。一方、火元の車の出火原因はまだ不明。
出火から約25分後の防犯カメラの映像では立体駐車場の中に煙が充満し、消防隊が中に入れない様子が映っている。なぜこうした事態になったのか。東京理科大学教授の関澤愛さんが注目したのは、防犯カメラが捉えた煙の動き。出火から約10分後、火元の方向から流れてくる煙に注目。出火側の煙が徐々に下側に落ちてくるのが見て取れるといい、煙が空間に充満した原因として指摘したのが天井をささえるはり。これまで立体駐車場では煙は天井の下を伝って外に抜けていくと考えられていた。しかしはりが行く手を遮ることで下に向かう流れが生まれ空間に溜まりやすくなったという。関澤さんは特に消防活動の上ではt愛作を考えていく必要があると指摘した。
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東京理科大学教授の大宮喜文は、比較的規模が大きい建築物は、防煙区画といい、天井から50cmくらいの垂れ壁を設けることがあるといい、今回そのはりが同じような役割を果たした可能性はあるかもしれないと語った。小林奈央は、立体駐車場の製造メーカーで作る、日本自走式駐車場工業会によると、こうした駐車場は火災に強く安全な構造物だとしているが、団体は国と相談しながら対策を検討したい、としていると説明した。
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- 日本自走式駐車場工業会
2017年イギリス・リバプールの立体駐車場で起きた火災では1400台近くの車が被害を受け、世界中の専門家に衝撃を与えた。なぜ火災は大規模になったのか。アメリカに拠点を置く国際機関が調査に乗り出し、報告書をまとめた。記されていたのは、現代の車における新たな危険性だった。全米防火協会のヴィクトリア・ハッチソンさんは、車体が主に金属でできていた時代にはこうした事態は起きませんでした、しかし今はプラスチックが多く使われるように鳴りその量は300キロほどにのぼります、それが熱にさらされることで火がつきやすくさらに燃え広がりやすくなっていると指摘していた。
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- リバプール(イギリス)全米防火協会
材質の変化は車の燃え方にどう影響しているのか。車に関する調査研究を行っている日本自動車研究所の田村陽介は、「これは車の使用材料の違いによってどう延焼が違うか調べたもの」だと説明。左は新しいタイプの車、右は車体が主に鉄でできた古いタイプの車を比較。同じ場所に火を付け燃え方を調べてみると、10分後には左の車は火が車の前方に到達。20分後には車全体が炎に包まれた。一方、右の車は後方が燃えるに留まった。田村陽介は、今の車というのは安全装置とか快適性を向上させるために必然的に重くなってきている、軽量化を図ろうということで樹脂系とか低融点で溶ける軽量の金属材料が使われ始めている、炎の広がりが早くなる傾向になる、と話していた。なぜ燃え方に差が生じたのか。愛知・豊橋の豊橋技術科学大学の中村祐二さん協力の下、検証した。用意したのはABS樹脂というプラスチックの素材。破片に火を付けてみると、溶けて頻繁に落ちていく。実際は燃えにくくする加工をするが、燃えて溶けてしまう。車体にプラスチックなどが使われた車の燃焼実験を詳しく見ると、材料が溶け落ち、車両を下から炙り続け、全体を燃やす熱源の一つとなっていた。中村祐二さんは、プラスチックだから直ちに燃える、直ちに危険というわけでは全然ない、想定以上の熱量がかかるとプラスチックというのは燃料になる、早めに検知をして早めに誰かが消しに来るか自動で消すかという早めの対策をすること言うのが何より大事と指摘した。
車両火災の件数は20年ほどの前のピーク時には8400件以上あったが、2022年には半分以下にまで減っている。東京理科大学の大宮喜文は建築にかかわる技術についても技術革新が行われていて、駐車場を含め建築物事態が高層化、大規模化していて多様化している、また自動車のようなものの素材も変わってきていて、自動車などの素材についても当然安全対策は確認した上で用いられているわけでその点については問題は無いと思うが、いわゆる建物と燃えるもの組み合わせが多様化している、これまでの対策そういったものに対応しているかということについては適宜確認しておく必要があるとした。今は消火剤も進化していて、泡水溶液を噴出する設備もあるという。大宮喜文は火災は出火してから早く消すのが大事な点になる、そういった意味ではそういった設備は有効であると思う、一方で火災現象は複雑で、性能が発揮されるのかは確認しておく必要があると話した。また原因について闇雲に恐れるのではなく、正しく知って次の対策につなげる、などと解説した。
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2023年12月8日(19:30)