- 出演者
- 寺門亜衣子
オープニング映像。
先月、マダガスカルの若者たちが農業の担い手として千葉県にやってきた。農家の平均年齢は68.4歳。食料生産の現場は人手不足により崩壊の瀬戸際に立たされていた。今各国は食料安全保障を掲げ、どう食を調達するか見直しを急いでいる。危機に直面したとき、日本は自らの食を守っていけるのかを考える。「シリーズ 食の“防衛線”」第1回はコメ。
日本ではコメ以外の食料はほとんど輸入に頼っているが、さらに今そのコメ作りの現場も大きく揺れている。去年まで20ヘクタールの農地でコメを生産していた加藤さんはことし春に破産を申し立て、農地を失った。現在は日雇いの仕事で生計を立てている。30代で地域の中核を担う農家として期待されていた加藤さんは、収益拡大を目指して大規模法人を立ち上げた。4000万円以上の融資を受け大型機械を購入し農地を広げたが、3年前にコロナ禍による外食産業の冷え込みでコメの価格が急落し売り上げが2割減少した。肥料や燃料代の高騰も追い打ちをかけた。最終的な負債総額は4500万円にのぼった。国の統計では一法人あたりの年間の所得は平均で218万円。2年間で180万円減少した。神明の八幡さんはこの秋、産地をめぐりながら危機感を強めていた。宮城・登米市の農家からはこれまでにない規模で進む農家の減少を告げられた。会社では長年取り扱い量を増やし全国で流通するコメの1割近くを担ってきたが、初めて取り扱い量を減らしかねない事態となっていた。
全国で2番目に多くのコメを生産してきた秋田・大仙市でも工作されていない水田が800ヘクタールに及んでいる。これまでは高齢化した農家がやめるとほかの農家が農地を引き受けてきたが、今引き受け手となっていた農家も高齢化し農地の維持が難しくなっている。市が高齢の農家に今後も耕作を続ける意志があるか確認すると、多くが将来農業をやめると回答した。最新の農業従事者の平均年齢は約70歳だが、この年齢を超えると急速にリタイアしていくため今後5年でコメの生産を支えてきた層が急速に減少するとみられている。大分・豊後大野市清川村では、コメだけでは収益が上がらないため農業法人を作り大豆への転作や麦との二毛作を組み合わせて経営を続けてきた。農業法人おはるではコメ単体では赤字に陥るため麦や大豆の売上や補助金を頼りにしてきたがそれでも法人の所得は114万円。コメの生産法人の平均の半分にとどまっている。この地域では3つの農業法人が連携し経営を効率化することで担い手を確保できないか議論してきたが、収益性の低さが現場を脅かしていた。国の試算では2040年度には人口減少などで需要は減ると予測。農家の担い手が減少する中でも見合った生産は実現できるとしているが、三菱総合研究所は需要の減りを上回るスピードで生産量が減少し2040年度には156万トンのコメ不足に陥ると試算している。
大分の農業現場では短期間で働くスポットワーカーの活用によって労働力を確保しようとしていた。時給は作業内容や時期で異なり、その日ごとに現金で支払っている。事業は地元の農協と建設会社が共同で行っており、年間のべ4万5000人を集めている。今後コメ作りの現場への投入も見込んでいる。しかし定着する人はまだ多くないという。新規就農者が過去最小となる中、外国人材を今まで以上に活用できないかという試行錯誤も始まっている。農業分野の人材派遣会社は特定技能の在留資格を持った外国人を派遣している。元々の制度では原則通年で同じ農家のもとでしか働けなかったが、4年前にできた特定技能制度では外国人材が様々な農家を渡り歩くことが可能になった。稲作が盛んなインドネシアを訪れた人材派遣会社の幹部は、送り出し機関の担当者から「ヨーロッパは特に人材が不足し給料は日本よりはるかに高い」「英語で通用するし面倒なことがない」と世界の人材獲得競争で日本が劣勢に立たされている現実を告げられた。
三菱総合研究所の研究員は「このまま農家が減ってしまうと需要が上がったとしても作れる人がいないという状況になってしまう」「食料安全保障上国家的な課題になりうる」などと指摘した。カロリーの多くを占める小麦や大豆などの穀物を国内で作っているのもその多くがコメ農家。コメ農家がいなくなると国民の食生活に大きな影響を与える。
国は戦後一貫してコメを農業政策の中心に位置づけてきた。食糧管理法に基づきコメを増産し、政府が買い入れることで自給率100%を達成した。しかし食の洋食化によりコメあまりが起き、余剰のコメを買うことになり財政負担が膨らんだ国は減反政策に切り替える。1995年には貿易自由化をきっかけに食糧管理法を廃止し、コメの価格を市場原理に委ねることにした。国は基盤を整備し農家の経営力強化を図ったが、消費者のコメ離れに歯止めがかからずコメの価格は下落の道を辿った。1995年には60キロあたり21,017円だったコメの価格は2022年には13,865円になっている。国は現在38%の自給率を45%に引き上げようとしている。利益の出やすい野菜をコメを合わせて生産するよう誘う政策や小さい農地を束ねて1つの農家にまとめる大規模化の政策など、国はコメ農家に対して様々な取り組みを講じている。
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- 全国米穀取引・価格形成センター食糧管理法
千葉・いすみ市は地元農家から有機米を通常の1.5倍の価格で仕入れ給食として提供している。仕入れ総額は年1300万円。費用の一部には保護者の給食費が充てられている。この取り組みは全国に広がっている。収益が上がらなかった農家もコメ作りの意味を改めて感じるようになっている。給食のコメが評判を呼んでほかの地域でも知られるようになり、いすみ市の農家が作ったコメは大手通販サイトでも扱われるようになっている。収益が安定することで新たな担い手の確保にもつながっている。
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- いすみ市(千葉)
スイスは農業に向かない土地が大半だが、自給率は日本よりも高い49%を維持している。スイスは農家が安定して食料を生産するための仕組みを整えていた。収入の3分の1ほどは国からの補助で、予算は日本円で約3500万円にのぼる。スイスでも戦後多額の補助を行った結果小麦の生産過剰が起きた。市場原理を導入すると収入が減少し、農家の離農により食料安全保障をどう確保するかが課題となった。1996年に行われた国民投票の結果、国民は食料の安定供給に必要な範囲で農業を守ることを選び憲法に明文化された。安定供給のため、国は生産の規模や方法が計画どおりに行われているかなど厳格な審査を行っている。制度の結果、若い人材も育っている。農業の専門学校の授業料は無料で、生徒数は30年で3倍近く増えた。
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- ヴァレー州(スイス)
東京大学の鈴木教授は「生産者も消費者も限界だとすればその差を埋めるのは政府」「スイスのようにそれぞれの地域で直接的に生産者、消費者、関係者が話し合う機会をもっと作れば良い」「長期的、総合的に自分たちの食料生産の価値を評価しないといけない」などと指摘した。鈴木教授は地域で自給圏を作る考え方を提唱している。消費者が給食や直売所を通じて地域の生産が成り立つ値段で買う仕組み。
次回予告。
エンディング映像。
「チコちゃんに叱られる!」の番組宣伝。
BS放送についてのお知らせ。NHKBS1とNHKBSプレミアムは12月からNHKBSとなる。BSプレミアムの番組は録画予約の再設定が必要となり、BS1の番組も放送時間が変更になるものもある。
総合テレビの一部地域では放送設備の点検・整備のため、深夜放送を休止する。地震などの緊急時は放送を再開する。