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もう学校の教員だった松岡義人さんと服飾デザイナーの朋子さんは54年前に結婚した。朋子さんは今認知症で入院している。義人さんは朋子さんのために手紙を書くことにした。
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義人さんが毎朝訪れる喫茶店。2年前までは朋子さんと一緒に通っていた。義人さんは盲学校を卒業した後、鍼灸師として働いてきた。幼い頃に先天性白内障を患い極度の弱視である。そんな義人さんを支えてきたのが朋子さんである。結婚以来、喧嘩をしたことは一度もない。8年前、朋子さんはアルツハイマー型認知症と診断された。6年経ったある朝、立ち上がれなくなり、入院。コロナ禍で面会も制限された。ルーペやパソコンの読み上げ機能を使って手紙を書いた。手紙のやり取りが2人を繋いだ。朋子さんは体調がいいと返事をくれることもあったが、入院して1年で返事は届かなくなった。義人さんは手紙を書き続け2年で260通を超えた。
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ある日、結婚式のアルバムが押し入れから見つかった。義人さんはアルバムの写真を手紙とまとめて、本にすることにした。出来上がった本は朋子さんの誕生日にプレゼントする。
去年11月11日。朋子さんの82回目の単誕生日。会うのは半年ぶりである。本の中には結婚式の写真も収められている。ウェディングドレスは服飾デザイナーだった朋子さんは自ら仕立てたものだった。
義人さんの一人暮らしもまもなく2年となる。自宅の庭には朋子さんが大切にしていた四季折々の花がある。今年4月、結婚記念日のお祝いに朋子さんが久しぶりに帰ってきた。用意したのは2人のお気に入りのコーヒーや音楽。
6月。花の本ができあがった。朋子さんが大切にしていた花々の写真と、とその様子を伝える文章が添えられた。義人さんは朋子さんに語り続けた。
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