2025年9月15日放送 0:55 - 1:50 日本テレビ

NNNドキュメント
「move your heart医療機器開発に挑む医師」

出演者
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(オープニング)
オープニング

オープニング映像。

move your heart 医療機器開発に挑む医師

金にならないと誰もやりたがらない子ども用医療機器の開発に挑む医師に密着した。

(NNNドキュメント)

大阪・高槻市の病院に勤務する根本慎太郎(60)は小児心臓血管外科医。100人に1人いるといわれる先天性心疾患の子ども3000人の手術に関わり、その半数を執刀した。この日は生まれつき心臓の壁に穴があき、血管が狭くなって1歳6か月の女の子を手術。3時間ほどの手術中は心臓を止めて人工心臓で命をつなぎ、修復用パッチで心臓の穴を塞ぐ。パッチは伸びず、細胞が異物として反応して固まってしまう。早ければ2年ほどで交換するための再手術が必要となる。このパッチの交換が患者の子どもや家族を悩ませていた。枚方市に住む加藤廉基くん(取材当時15)の心臓にもパッチがついている。生後13日で初めての手術。パッチを交換するため15歳で再手術を受けることになった。患者や家族が望んでいるのは交換不要のパッチ。根本は交換不要のパッチ開発に取り組み始めたが、医療機器の約7割を輸入に頼る日本では簡単ではなかった。医療機器の世界市場はアメリカのシェアが約半分を占め。日本は5%にとどまる。特に子ども用はリスクが高く、収益が見込めないことから企業がやりたがらないという。根本は10社以上に連絡したが、どこも取り合ってくれなかった。そんな時に新聞の北陸産業特集で医療分野に挑む福井市の繊維メーカー「福井経編興業」を知った。外国製の安い生地に押され、会社の先行きを案じていた2012年に根本から連絡があった。根本に要請されて手術を見学した高木社長は「僕らが見るだけでも涙が出るような頑張りを二度と起こさせたくない。助けたいという気持ちになった」と当時を振り返った。7000万円以上をかけて無菌室を設置し、社運をかけた「ガウディプロジェクト」が始まった。パッチに求められたのは異物反応に固まらない生地であること、赤ちゃんから成人になると8倍ほどになる心臓に合わせ縦横2倍に伸びること、強度を保つことも必要だった。素材に詳しいことから開発メンバーに選ばれた櫻井潤さんは医療分野は初めてだった。医療機器の開発には技術に加えて資金が必要。根本は帝人に協力を求めた。当時の帝人は医療分野で新たな事業を探っていたが、命に関わる外科用はリスクが高い。決め手になったのは根本の提案で役員が手術に立ち会ったことだった。開発コストを確実に回収するためには海外にも販売ルートを広げる必要があった。根本は自ら海外に売り込みをかけた。

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村田一薫ちゃん(取材当時2)は生まれつき心臓に病気を抱えている。根本医師は病気の子どもを持つ家族の気持ちをいつも気にかけている。妻・紀代美さんは3年前から両親の介護で富山の実家に戻っているため、根本は大学院に通う三男・直広(25)と二人暮らし。連休を利用して家族で富山に集まった。理系科目が得意だった根本は人と関わる仕事がしたいと医師を目指した。海外を渡り歩いて手術の腕を磨いていた時にアメリカで二男・諭くんが生まれた。生まれつき染色体異常でがんを患い、目が不自由になるなど重い障害があった。何度も手術を受けながら、懸命に生きる我が子を家族で必死に支えたが、8歳のときに建物から転落して亡くなった。根本は残されたエネルギーを世の中のためになる研究に使いたいと考えるようになり、その1つが医療機器開発だった。根本が取り組む交換不要のパッチ開発は技術者のアイデアで大きく進展した。あえて溶ける糸を使い、2種類の糸で編むことで1つは体に吸収され、もう1つは吸収されずに残る。臨床試験で安全が確認され、2023年7月に国に承認された。シンフォリウムと名付けられ、1枚あたり37万8560円で販売されることになった。息子たちは挑戦する父の背中を見てきた。長男・清正(30)は医師として働いている。久しぶりに会った親子の会話は医療現場の課題だった。

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優茉ちゃん(取材当時1)はシンフォリウムが承認された後、初めての手術を受け、心臓にあいていた2つの穴を塞いだ。従来のパッチと異なり、交換回数を減らすことが期待されている。シンフォリウムの開発は成功したが、根本のゴールはまだ先にある。次なる挑戦は心臓の人工弁の開発。医師のアイデアを大企業がバックアップして形にするのはアメリカでは日常的な光景だという。根本医師に協力する帝人は医療機器では国内10位前後でトップメーカーではなく、時間も金もかかる上、リスクが高い子ども用医療機器の開発を続けることは容易ではない。シンフォリウムは承認まで9年かかった。国内で承認医療機器529例のうち小児用はわずか12例(2.2%)。PMDA(医薬品医療機器総合機構)は医療機器の安全性を評価する公的機関。根本の挑戦がモデルとなった小説「下町ロケット」にも登場し、開発を阻む壁として描かれる。ハイリスクな子ども用の医療機器は開発が少ないという。PMDAの石井さんは根本医師のような人たちがもっと多く出てほしいと語った。6月に人工弁の動物実験が始まり、帝人の技術者にも立ち会ってもらった。根本に会いたいと手紙をくれた小学6年生が訪ねてきた。探究学習で知ったシンフォリウムを大阪・関西万博で発表するため、分からないことを根本に聞きに来た。根本の挑戦は未来の世代にも届いていた。アメリカ・スタンフォード大学の池野文昭医師はアメリカで200以上の企業と医療機器の開発に関わってきた。日本はアメリカと異なり、成功したロールモデルがないのでマインドセットがない。若い人が憧れる存在が大事だと語り、根本への期待を語った。

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9月6日、根本に話を聞きに来た小学生たちが大阪・関西万博の会場で発表を行った。楽しみにしていた根本の姿はなく、インドネシアの学会でシンフォリウムの可能性をアピールしていた。シンフォリウムは現在185人の命をつなぎ、アメリカでも販売される日が近付いている。

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(エンディング)
次週予告

「NNNドキュメント」の次週予告。

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