アジア有数の観光地・インドネシアのバリ島では、観光客の増加に伴って宿泊施設などの建設が進むことで、観光資源でもある伝統的な稲作地帯が減少してしまうという矛盾に直面している。現地からのリポートを紹介。去年は外国人旅行者が1日の平均でおよそ1万7000人訪れ、コロナ禍前の水準にまで回復した。観光客を受け入れる宿泊施設も急増。2022年には年間でおよそ500軒の施設が建設されるなど、開発が加速している。背景にあるのは、活発化する海外からの投資。外国人向けに不動産の仲介や管理を手がける会社に話を聞いた。インドネシアでは外国人が土地を所有することができないため、投資家は土地を利用する権利を地元の農家から買って、宿泊施設を建設。農家にとっても安定した収益が見込める。開発が進む一方で、減少しているのが田んぼ。中でも棚田はバリ島を代表する景観の1つで、一部は世界遺産を構成する要素にもなっている。2017年の画像を見ると緑や茶色のエリアが目立っていたが、2023年には広範囲にわたって建物や道路が増えているのが分かる。開発を規制すべきかどうか、行政側の対応も定まっていない。中央政府は去年10月、観光客が集中する島の南部で新規の宿泊施設や飲食店などの建設を2年間規制する方針を打ち出した。しかし選挙の結果、ことし3月に就任する予定の知事は、規制の実施に慎重な姿勢を示している。地域の観光にとって何が重要なのか。専門家は長期的な視点で捉える必要性を指摘する。城西国際大学観光学部・佐滝剛弘教授は「(景観が)失われつつあることになると観光資源そのものを毀損することになる。そうすると長い目でみると結局、観光客は減ってしまう。より長く観光地として存続していく、持続的というキーワードをきちんと住民側も行政側も確認しておくことが重要」と述べた。厳しい規制が導入されれば、経済の発展に影響が出るかもしれない難しい問題。自然の景観を売り物にする多くの観光地に共通する問題かもしれない。