中村地区は海と川の水が交わる豊かな汽水域が広がる。専業川漁師の黒澤雄一郎さん。2022年9月、川の漁だけで生計をたてる専業川漁師が黒澤さんだけになった。埼玉県出身で東日本大震災の原発事故をきっかけに自然豊かな場所で暮らそうと2011年に家族で四万十市に移住した。移住し7年目、四万十川の河口は冬になるとのスジアオノリ漁で賑わう。長年、全国1の水揚げを誇り1980年代には約50トンほど捕れた年もあった。だが近年、水揚げ量が激減し2018年には2.6トンにまで減少。それでも黒澤さんが漁をする分には十分な量が捕れていた。黒澤さんにとってスジアオノリは川漁師としての生命線で収入の半分を占めていた。しかし2020年2月、ノリが全く生えない。ノリの胞子が川底の石に付き繁殖するスジアオノリ。しかし石の間に土砂が溜まるようになりノリの姿が消えるようになった。スジアオノリの減少には温暖化も影響しているといわれているが黒澤さんは流れ込む土砂も問題だと考えていた。2020年3月、ノリが捕れるも例年より遅く水揚げ量も全盛期の1%以下。減っているのはスジアオノリだけでなく四万十川の夏の味覚テナガエビもだった。乱獲で減ったとされるテナガエビ。これも川底の石が土砂で埋まりエビが隠れる隙間が無くなったことが影響していると考えている。川の異変を感じていたのは黒澤さんだけでなく、一藤貞男さんもその1人。四万十川でおよそ半世紀に渡り専業の川漁師をしてきた。黒澤さんは移住直後、弟子入りし川漁師に必要な技術を教わってきた。スジアオノリが大幅に減った2020年春、一藤さんは川漁師を辞めた。2020年9月、黒澤さんにとって収入が見込めるのはウナギ漁だけになっていた。2021年1月、スジアオノリの水揚げ量はゼロになった。秋~冬にかけて四万十川下流には産卵に向かうため鮎が群れをなしてやってくる。2021年12月1日、鮎漁が解禁され黒澤さんは落ち鮎の漁に一藤さんと向かった。