依頼品はサントス・エルナンデス作のクラシックギター。クラシックギターは弦を弾いて鳴らす撥弦楽器の一種。アコースティックギターとよく似ているがその違いは弦の素材。鉄弦を用いるアコースティックギターに対しクラシックギターは古くは牛や羊などの腸を撚り合わせて作ったガット弦を用い、現在はナイロン弦を用いる。ナイロン弦の張りはとてもゆるいためピッグは使わず爪を整えて演奏する。1つの和音を同時に弾くのはもちろん、親指で低音弦を伴奏しつつ残りの指で高音のメロディを奏でるなど旋律・和音・ベースをひとりで演奏することができる極めて自由度の高い楽器。その原型は15世紀のルネサンス期、スペインで生まれたとされるがこぶりな作りで小さな音しか出せなかったため酒場の唄場の伴奏に用いる楽器と認識されるにすぎなかった。しかし19世紀後半、モダンギターの父と言われるギター製作者、アントニオ・デ・トーレスが改良を重ねボディを大型化。繊細で甘美な音色と豊かな音量を出すことに成功した。そして20世紀初頭、不世出の天才ギタリストと歌われたアンドレス・セゴビアがギター1本でバッハやショパンなどのクラシック音楽を奏で、ピアノやバイオリンと方を並べるコンサート楽器としての地位を確立。ギターは世界的に広まり、ギター製作者にも大きな注目が集まるようになった。その1人、サントス・エルナンデスはスペインを代表する名工だ。1874年、マドリードの生まれ。ギター製作の巨匠、マヌエル・ラミレスの工房で学んだ。その腕前は師を凌ぐほどでセゴビアが愛用したラミレス作のギターは実はサントスが手掛けたとの逸話が残されている。47歳で工房を開いたが弟子を持たずすべて1人で制作したため残したギターは極めて少ない。特徴は重量感に富む低音と澄み切った高音が両立した類まれなる和音の美しさだ。「その優美なボディのすべての線や特徴が私の心をしっかりと捉えた。私がギターを弾き始めたとき、私の全身は言い表しようのない幸福感に包まれた。私はギター以外のすべてを忘れた」。改めて依頼品はサントス・エルナンデスのクラシックギターだ。内部に貼られたラベルによると1941年の作。ボディやネックに割れやヒビはなく、状態はいいようだ。