築60年の賃貸アパートに住むシングルマザーのみどりさん(仮名)は、老朽化による取り壊しで、1週間後に退去することになった。30年間使い慣れた台所とも、お別れすることになる。最初、20代の頃、このアパートで一人暮らしをしていたみどりさんは、元夫との間に子どもが生まれ結婚。子どもが生まれ、料理をする楽しさに気がついた。しかし、元夫から料理中に殴られるなどのDVに遭い、離婚後もつきまといが続き、みどりさんは鬱病を発症。当時は、恐怖で包丁を持てず、キッチンばさみで料理を作り続けていたという。やがて、夫が亡くなったことを人づてに知り、子どもたちの支えもあり徐々に回復していく。そんな、悲しい思い出も、幸せな記憶も一緒に過ごした家に、みどりさんは別れを告げた。引越し先の新しい台所で、みどりさんはまた子どもたちのための料理を続ける。