与那国島は沖縄・那覇市から西へ500km、台湾とは110kmの距離にある。人口は約1700人。元町職員の田里千代基さん(66)が農作業をする畑の目の前には自衛隊のレーダーがある。島に自衛隊が配備されたのは2016年。田里さんは2010年から町議会議員を務め、自衛隊の動きに厳しい目を向けてきた。与那国島は2004年に住民投票で石垣市などとの合併を否決し、単独の島として生きる決意を示した。戦後間もない頃は活発だった台湾との往来を復活させ、国境の島に住民が住み続けることが平和の維持や国土の保全につながると強調した。田里さんは与那国島が抑止力の最先端ではなく、アジアの緩衝地帯になるべきだと訴えている。沖縄・先島諸島への自衛隊の配備は2010年ごろから進み、2016年に与那国駐屯地、2019年に宮古島駐屯地、2023年に石垣駐屯地ができた。日米が南西諸島を拠点にして中国に対抗していく姿勢が見え隠れする。沖縄県民からは抗議の声が挙がっている。与那国島の糸数健一町長は就任前に中国の脅威を訴え、自衛隊の配備を求めるメンバーとして誘致活動を行ってきた。島にはミサイル配備や港の建設計画が持ち上がっている。空港も滑走路を延長して特定重要拠点に指定しようとしている。特定重要拠点とは政府が港や空港を整備・支援し、引き換えに有事・訓練で使用すること。予定地は島の西側に集中している。田里さんは島で加速度的に進む軍事化に危機感を抱いているが、糸数町長は国や県に港・空港の整備を求めている。田里さんは町議会でも自衛隊問題を追求してきた。現在では真っ向から意見が対立する2人だが、かつては同じ方向を向く同志だった。田里さんが作成に関わった「与那国・自立へのビジョン」に糸数町長も農家代表として携わっていた。島の図書室で司書を務める田里千代基さんの妻・鳴子さんは2004年に合併の是非を話し合った町民大会を懐かしむ。その時は島が一つになっていたという。