数学の力は命の現場にも及んでいた。神戸大学教授・木村建次郎(Integral Geometry Science CEO)が世界で初めて開発したのはマイクロ波を使ったこれまでにないマンモグラフィ。年間およそ9万人が発症し、1万4000人以上が命を落とす乳がん。早期発見のために自治体や企業が無料の検査を実施するなど今や画像検査の市場規模は世界で5兆円に上るが、従来の方法には問題。従来のマンモグラフィはがん細胞を見やすくするため、装置で胸を押し潰す必要があり、強い痛みが伴う。微量だが放射線被ばくするため妊婦などは受診できない。乳腺の密度が高い高濃度乳房の場合、レントゲンに乳腺が映り込んでしまうため、がんの発見は困難を極める。木村が開発したのはこうした課題をクリアしたまったく新たなマンモグラフィ。検査は胸の表面を装置でなぞるだけで痛みはない。X線ではなくマイクロ波を使うため被ばくの心配もない。今、臨床試験の最終段階で、厚生労働省の手続きをすれば販売できる。このシステムの開発は医療分野での貢献を認められ、日本医療研究開発機構理事長賞を受賞。大がかりな装置を必要としない検査機の価格は1台約5000万円。