練習を終えた堀島はノートに向かっていた。中学生の頃から続けているという書く習慣。書くことで自分自身と対話する。モーグルは立った1人で滑る孤独な競技だからこそ自分にかける言葉が必要なのだという。内なる戦いの痕跡をノートだけが知っている。遡るとネガティブな記述があった。2018年に初めて出場したピョンチャン五輪直後のもの。当時、金メダルを期待されていた。しかし、決勝のスタートラインに立った時、堀島の気持ちを支配していたのは不安だった。結果は11位。少年の頃から目指してきた大舞台で見たのは想像とは程遠い自分の姿。現実が堀島の心を蝕んでいった。堀島を襲った気持ちの揺れ。モーグル元日本代表の上村愛子は「みんなに好かれる弟分みたいなところがあったが、一気に周りがライバルになってしまい、自分に向き合うより周りに対して勝たなきゃってどこか不安というか怖くなるんです。そういう感覚でピョンチャンではなっていたのかな」と話した。一度は沈んだ堀島の心だったが、不安の連鎖から抜け出すため向き合ったのは客観的な事実。一つ一つの結果を数字で確かめていった。結果のみを見つめて歩みを振り返ると不安が薄らいでいく。数字を盾に望んだ北京五輪。金メダルには届かなかったが初めて表彰台に立った。北京後、技術面の不安の要因だった第1エアーの改善に取り組んだ。徹底的な反復練習で完成度を上げていく。緻密に計算することで自分に安心を与える。上手くできた時の力の入れ方は図に残し些細な感覚すらも客観的に記録。ノートは堀島行真のマニュアルに変わっていった。新たな技をモノにしたことで勝利のスタイルを確立した。
