多くの人が日々、目にするという美容医療の動画や画像。ところが今、法令に違反する広告が相次いでいる。昨年度は2888か所の違反が確認された。美容医療のニーズが高まる中でクリニック間の競争の激化が背景にあるといわれている。どんな広告が違反に当たるのか、厚生労働省のネットパトロール事業の現場に初めてカメラが入った。この部署には違反が疑われる広告が次々と報告されている。医療は患者の健康などに影響を与えるため広告には厳しいルールが設けられている。厚生労働省のガイドラインでは例えば「日本一の実績」など別のクリニックより優れていることをうたう比較優良広告は禁止。さらに「痛くなかった」など主観に基づく体験談やリスクなどの詳細な説明のない、いわゆるビフォーアフターを示す広告は全ての患者が同じ効果を得られると誤解させる恐れがあるため禁止されている。厚生労働省・加藤拓馬さんは「1つの事例で全てを語っているのは、かなり消費者に対し誤認を与えるもの」と語った。国は違法な広告を出しているクリニックに直接修正を促している。しかし全てをチェックするのは困難なため広告を見るときには注意してほしいと呼びかけている。厚生労働省・加藤拓馬さんは「美容医療を受けることで思わぬ結果になってしまうことを防ぐためにもルールが設けられている。背景も理解してもらえるとありがたい」と語った。法令に違反する広告は多様化していることも分かってきた。美容クリニックの広告を制作する会社。最近、業界で問題視されているのがインフルエンサーを使った違反広告だという。知り合いのインフルエンサーに美容クリニック側から送られた依頼文は施術を体験しSNSに投稿してくれれば報酬を支払うという内容で体験談など法令に違反する恐れがあるものだった。マーケティング会社・佐藤ゆみ社長は「リスクなどを書かないまま広げてしまう。ちょっと危険だなと思う」と語った。効果ばかりが強調されたネット上の投稿をきっかけに施術を受けトラブルに見舞われたという人もいる。幼い頃から自分の顔にコンプレックスを抱えてきたという20代の女性は憧れのインフルエンサーが投稿した鼻の施術の体験談などを見て自分も同じ医師から施術を受けることを決めた。ところが施術後思いもしなかった事態に直面。鼻の穴が小さくなりすぎてしまった。別の医療機関で診てもらうと鼻で息がしにくい鼻閉の疑いがあるといわれ鼻炎薬が欠かせなくなった。施術を受けたクリニックに相談したが担当医はすでに退職。施術した医師でないと分からないと言われ、対応してもらえなかった。女性は「当時は作られた画像とか、本当に綺麗な部分しかみえていなかった。リスクを最もく受け止めるべきと当時の自分にすごく言いたい」と語った。違反広告が相次ぐ現状について長年美容医療に携わってきた医師は業界全体の信頼が失われかねないと危機感を募らせている。美容クリニック・水谷和則医師は「美容医療自体は悪くない。美容医療はうさんくさい、お金を取るだけのまがい物の医療と誤解されることも嫌」と語った。対策について美容医療を手がける医師らで作る学会・日本美容外科学会・青木律理事は「行政に取締りの強化を求める」「業界でもガイドラインを策定し、適切な医療機関を選べる仕組みを整備したい」としている。国もネットパトロールによる取締りを強化するとしているが利用する側も違反広告が相次いでいることを気に留めて注意することが大事。