岡山の住宅街のお宅台所。コンロ下は扉が外され、すぐに鍋が取り出せる。鎌谷実玲さん25歳は子どもの頃から長い時間を過ごしたおばあちゃんの台所。半年前に1人暮らしのおばあちゃんが入院し、持ち主が不在。祖母はこの台所で近くに住む4世帯分のご飯を作ってきた。実玲さんは3年前から奈良県で暮らしていて、祖母は実玲さんの台所でも料理をしたことがある。慣れない仕事で体調を崩したとき、祖母は1人電車を乗り継いで幾度となく奈良に来てくれた。岡山に帰る日には、必ず好物の長芋のすまし汁と一緒に手紙が添えられていた。祖母が倒れてから、自分でも作れるように練習しているが思った味にならない。祖母の台所には毎日誰かが訪れて整えている。2月末、半年の入院を経て退院した。実玲さんは祖母の近くで暮らしたいと夫婦で故郷の岡山へ。入院前と同じようにこの家でみんなで食べる。変わった点は、祖母の指示で作るようになったこと。きょうも10人分以上を作る。実玲さんも岡山に戻ってから、長芋をふわふわにする方法がわかった。
