2015年、心柱の修理が始まった。心柱の直径は約90センチ。狭い中に入って作業をしなければならない。体重を10キロ減らすため、健康に良くないことを承知で夕食を取らず酒を一杯だけ煽って寝た。内部を削り修復すること1年、段を付けた木材を慎重に心柱にはめ込んでいった。2017年1月、心柱が建て直された。
しかし難題がまだ残っていた、心柱の頂上に取り付けられる銅製のシンボル「水煙」。X検査をすると数十か所に亀裂があることがわかった。新たに今と全く同じものを制作すると決まった。この仕事は高岡市の鋳物職人・梶原壽治に任せられた。ゆがみや錆が生じた今の状態を完全に再現せよという難題に梶原は頭を抱えた。梶原は15の会社の100人近い職人たちに協力を呼びかけた。2018年10月、鋳造の日。一発勝負、鋳型に銅が流し込まれ翌日新たな天人が姿を現した。
一方、工人の心を探していた石井に衝撃の知らせが届いていた。突然突きつけられた妻の重い病。石井は現実を受け入れられなかった。それでも石井は仕事を続けた。日中は修理を終えた部材を一つ一つ慎重に組み上げていく。帰宅すると家事をこなしながら妻、幸代の闘病を支えた。抗がん剤の副作用に苦しむ幸代をただ見守るしかなかった。そんな日々が続いたある日ふと心柱が目に入った。そして思った。1300年前病や天災の前に人々が無力さを突きつけられた時代。古代の工人たちも大切な誰かの平穏を願い、この塔を築いたのではないか。あの一振りの迷いなき仕事には、まっすぐな祈りが込められているのだと思った。「創建当時の工人の心になって仕事をしなさい」。西岡の教えの意味が分かった気がした。それから石井は部材を一つ一つ祈りを込めながら組み上げていった。2019年9月、ついに東塔が姿を現した。1万3000の部材のうち心柱を含め9割を生かすことができた。心柱を守り抜いた松本は職人としての信念を貫いた。現代の工人たちの力で祈りの塔が次の千年に引き継がれた。
しかし難題がまだ残っていた、心柱の頂上に取り付けられる銅製のシンボル「水煙」。X検査をすると数十か所に亀裂があることがわかった。新たに今と全く同じものを制作すると決まった。この仕事は高岡市の鋳物職人・梶原壽治に任せられた。ゆがみや錆が生じた今の状態を完全に再現せよという難題に梶原は頭を抱えた。梶原は15の会社の100人近い職人たちに協力を呼びかけた。2018年10月、鋳造の日。一発勝負、鋳型に銅が流し込まれ翌日新たな天人が姿を現した。
一方、工人の心を探していた石井に衝撃の知らせが届いていた。突然突きつけられた妻の重い病。石井は現実を受け入れられなかった。それでも石井は仕事を続けた。日中は修理を終えた部材を一つ一つ慎重に組み上げていく。帰宅すると家事をこなしながら妻、幸代の闘病を支えた。抗がん剤の副作用に苦しむ幸代をただ見守るしかなかった。そんな日々が続いたある日ふと心柱が目に入った。そして思った。1300年前病や天災の前に人々が無力さを突きつけられた時代。古代の工人たちも大切な誰かの平穏を願い、この塔を築いたのではないか。あの一振りの迷いなき仕事には、まっすぐな祈りが込められているのだと思った。「創建当時の工人の心になって仕事をしなさい」。西岡の教えの意味が分かった気がした。それから石井は部材を一つ一つ祈りを込めながら組み上げていった。2019年9月、ついに東塔が姿を現した。1万3000の部材のうち心柱を含め9割を生かすことができた。心柱を守り抜いた松本は職人としての信念を貫いた。現代の工人たちの力で祈りの塔が次の千年に引き継がれた。