報道特集 (特集)
米国・イリノイ州南部の街、カーボンデール。州境に近い場所に近隣の州に住む女性たちの駆け込み寺となっている人工妊娠中絶専門のクリニックがある。取材に訪れるとクリニックの前の道路で2人の方が座り込みをしていた。胸の小型カメラでクリニックに入る患者の写真を撮影し、人種や車のナンバーなどを記録。車を止めた患者に対し、中絶を思いとどまるよう説得するという。取材をしているとクリニックの院長が現れ、道路の向かい側に立った。アンドレアガイェゴス院長は「患者が中に入りやすいようにしている」と語った。院長と反対派との間で口論が始まった。抗議活動は、ほぼ毎日行われているという。厳重なセキュリティーが敷かれているクリニック内部の撮影が許された。米国では1973年から中絶が憲法上の権利として認められていた。しかしトランプ政権下で保守派の判事が相次いで最高裁に送り込まれた結果、2年前、それが覆された。ケンタッキー州やテネシー州など周辺の州で中絶が禁止されたため、女性たちが州境を越えてやってくるという。中絶は手術を選択した場合も薬を服用した場合も日本円で9万円ほど。アンドレアガイェゴス院長はもともと米国・テキサス州でクリニックを開設していたが、中絶が禁止され経営ができなくなった。周辺の州からアクセスしやすいイリノイ州に移ってきたという。クリニックに来ていた患者に話を聞くことができた。レイプの被害者や10代の患者を診ることも多い。最年少の患者は12歳だったという。トランプ前大統領が再選したら?アンドレア院長は「彼にはこのような事態を招いた責任がある。少なくとも彼に命と健康の問題を託すべきではない。再選された場合、何が起こるかとても怖い」と語った。
同じ町に産前産後の女性たちの支援センターがある。センターのチャスティティメイズさんは寄付されたおむつやミルク、チャイルドシートなどを配り、州外からやってくる中絶希望者のサポートもしている。メイズさんは「ジョージア州アトランタで女性が死亡する例が複数あった。流産していたのに体内から取り除く処置が受けられず、敗血症を起こしていた。中絶になるとして、医師は処置しなかった」と語った。カーボンデールは小さな街であるため、タクシーやバスなど公共の交通手段が少なく、列車でやってくる患者の送迎をメイズさんが行う。トランプ前大統領が再選したらどうなる?メイズさんは「中絶の問題では女性が選択する権利を奪われる。さらに人種差別主義者たちを大胆にし、彼らは差別を露骨にできるようになると自信を得る。少数派は再選されれば、深刻な影響を受ける」と語った。選挙戦が終盤に差しかかり、トランプ前大統領が中絶問題に直接言及することを避ける様子もみられる。トランプ前大統領を厳しい目で見つめているのがキリスト教保守派福音派の信者たち。米国・テネシー州のバイブルベルトと呼ばれる敬けんなクリスチャンが多い地域、共和党の牙城になっている地域を取材。屋根にアメリカ国旗が描かれた愛国者教会。星条旗の横にはイスラエル国旗が飾られ、イスラエルへの支持を打ち出している。ケンピータース牧師は他の州で21年にわたり教会を運営していたが、現地の中絶クリニックへの抗議活動で訴えられ、日本円で1億4600万円の賠償を命じられた。その後テネシー州に移り、4年前この地で新しい教会を始めた。ピータース牧師は「民主党は数十年前の党のあり方からすっかり変わってしまった。移民は急激に増えた。ハリスは邪悪な存在」、最近トランプ前大統領が中絶についての態度を明らかにしないことについては「彼に非常に腹を立てている」と述べた。